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目の前の現実が信じられずに、天は言葉も出ないくらい驚いていた。
何事かと急遽出張先から戻って来てみれば、呉羽はあるホテルに居ると言う。
そして、呉羽を見つけてみれば―――ウェディングドレスを纏った美しい姿をしている。
着物を着た時のような独特の奥ゆかしさとは違い、また呉羽にとってみれば無理に着せられたも同然であるから、不機嫌さを漂わせた高貴な女王に見える。
「あ、天さん、今日は出張じゃあ…」
呉羽は突然現われた天に驚き、慣れないドレスで近づくが天は呉羽のあまりの美しさに固まったままだ。
「・・・天さん?・・・似合わないならそう言ってくれればすぐに脱ぎますから。
これは克己さんと鷹祢に無理矢理着せられたんです」
似合うわけないと、自分の美貌にも興味のない呉羽は心底そう思っている。
だからこそ着物やこんなドレス姿も見て欲しくはなかったのに、と。
「だ、ダメだ!脱がないでくれ。せっかくこんなに・・・」
まだ魅入られたように呉羽から目を離せない天。
「はぁ〜・・・。やっぱり女性がいいんですね。さっさと女のところに行ったらどうです?」
その台詞は呉羽の本心ではなかったが、あまりに呆然としている天にはとても効果があった。
「馬鹿言え!女が呉羽に敵うわけないだろう!!」
靄が晴れたように天がそう叫ぶと、呉羽は嬉しくて滅多に見せない微笑みを浮かべる。
その様子は正しく幸せの絶頂にいることを示していた。
ドレスは持ち帰り可と言われ、天のどうしてもというお願いに呉羽も負けてしまい、豪華なドレスやティアラを持ち帰った。
「呉羽、ドレスを着たらしいな。俺は呉羽の白無垢姿も見てみたい。
毅さんとこの咲綺ちゃんもそれは綺麗だったと自慢されたからな。
さっそく用意させておいたぞ」
数日後、楽しくて嬉しくて仕方ない、といった様子で天の父・賢がそう言った。
「お義父さん、また僕を怒らせたいようですね?」
だが呉羽は冷たくそう告げると、帰りますと立ち上がった。
「だから呉羽を怒らせるなって散々言ってるのに・・・。親父も懲りないな」
以前も呉羽を怒らせて冷たくされた賢は、絶句してしまう。
それから暫らくは、また呉羽のご機嫌を伺う賢がいた。
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