『 藤代家の事情 』

− 龍也&克己の子供達の場合 −


「何か最近気持悪いんだよね」
そんな事を確かに克己が言っていた。
だが、まさかそんな事が起こると誰が想像する?
そりゃあ、克己は美人でキレイで可愛くて、男にしとくのは勿体無いとは思うが ―― 男だぞ。
まさか ―― 子供を産むなんて!


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「おはよう、良介」
名前を呼ばれて振り向けば、そこには学生服に身を包んだ少年が立っていた。
「あ、おはようございます、雷火さん。今日は随分早いですね」
「今日は高校の入学式だからな。初日くらいはマジメに行っておかないと…な」
そう言ってダイニングテーブルに付く雷火はちょっと長めの髪を後ろで束ねると、テーブルの上に並べられた朝食に手を出した。
「あ、そうでしたね。風花さんは?」
「…起きています。おはようございます、良介さん」
次に姿を現したのは、肩のあたりで黒髪を切りそろえた少女である。
「おはようございます、風花さん。お食事になさいますか?」
雷火相手ではそうでもなかった良介の言葉遣いが、風花になるとがらりと変わる。それに気が付くのはいつも風花で、
「…何度も言うようですけど、良介さん。私はお父様ではありませんのよ。そんな丁寧な言葉遣いはしないで下さいな」
「あ、スミマセン。つい、クセで…」
「まぁ、仕方がないな。姉さんは親父にそっくりだからな」
そう言って笑う雷火は、克己に瓜二つである。



早いものでもうあれから15年。
まさか男の克己が妊娠するなんて、と誰もが不思議に思う一方で、まぁあれほどのラブラブカップルなら子供の一人ができても不思議ではないと妙に納得したのも事実だったのだが ―― 10ヵ月後に生まれたのはなんと二人、女と男の双子だった。
姉の名前が藤代風花(ふじしろ ふうか)、弟が藤代雷火(ふじしろ らいか)。
性別の異なる双子は二卵性(そもそも卵子が何処から来たのかが問題だと思うのだが)であるため、姿形は俗に言う双子というほどは似ていないのは良いとして、成長するに当たってその差は歴然のものとなり ―― 寧ろ風花は龍也に、雷火は克己に瓜二つとなっていた。
研ぎ澄まされたキツイ眼が印象的な風花に、いつも穏やかな笑みを絶やさない雷火はまさに両親の特徴をそのまま受け継いでいて。
流石に体格は女である風花は華奢なスレンダー、男の雷火はそろそろ180に届こうという細身ながらに長身である。
どちらも両親に似て秀才の名をほしいままにしており、男女を問わずモテまくり ―― と、藤代Jr.の名を辱めないところであった。
但し、その性格が問題であるが。



「それにしても、姉さん、マジに眠そうだな」
どう見たって寝不足ですという感じの風花を、雷火は少し心配そうに覗き込んだ。
「そういえば、姉さん主席だったんだよな。新入生の代表挨拶とかするんだろ?」
2人の入学する浅月学園では、その年の主席者が新入生代表として入学式で挨拶をすることになっている。それを知っていた雷火は最初から入試で手を抜いて主席をわざと取らなかったのだが、マジメな風花はみごと満点での入学である。
しかし、
「今年の主席者は他にも何人かいたんですって。でしたら私じゃなくてもいいはずなので、ご辞退させてくださいってお願いしたの」
「じゃあ…まさか今日の入学式が待ち遠しくて眠れなかったなんて言わないよな?」
雷火が何気にそんな事を言うと、途端に風花の白皙が朱に染まった。
「だって…そういう雷火君は良く眠れたわね。あんなにお父様達が…」
と言いかける最中も益々頬は赤く染まる。
この双子の場合、両親はどちらも「父」であるから、龍也を「親父」または「お父様」、克己を「パパ」と呼び分けていた。
そしてこの両親と来たら ――
「え? ああ、なんだ。あんなのいつものことじゃん。全く…親父もパパを苛めるの、いい加減にすればいいのにな」
あっさりとそんな事を言われて、この場合、聞かされる良介は何と応えていいものかいつも悩むところである。
そう、この双子。実は姿形と性格ではまるっきり反対の親の形質を受け継いでいるのだ。
あの龍也そっくりの風花であるが、性格は克己そのままに奥ゆかしく温厚そのもの。一方の雷火は克己そっくりの容姿でありながらまるで高校時代の龍也そのもので。
なまじっかその当時の龍也を知っている良介にしてみれば、あまりにそっくりなので頭が痛いところでもある。



「あ、三代目、おはようございます」
朝から賑やかにしていたせいか、珍しく早く起きてきた龍也に、咄嗟に良介が挨拶をすると、それに気がついた雷火が振り向いた。
「親父、パパは?」
「まだ寝ている。良介、俺にもコーヒーを入れろ」
「はい、判りました」
どこかすっきりした雰囲気の龍也は、年頃の娘や息子の前であるというのにバスローブ一枚というラフな格好で。当然寝ているといわれた克己がどんな状況かは、二人の子供にだって想像に容易い。
しかも、
「パパに少し手加減してあげろよな、親父。昨日だって随分派手に泣かしてただろ?」
実は、龍也達の寝室は子供部屋の上にある。流石に作りはしっかりとしているからそう声が筒抜けという事はないのだが、何せ克己に関しては制限のないところは昔と全く変わりない龍也である。
「フン、今日の入学式には行かせてやるんだ、文句はあるまい?」
高校の入学式など、龍也に言わせればアブナイ限りで。妙に色気づいた年頃のガキどもの巣窟になど、行かせたくないのが本心である。
「心配しなくても、パパに変な虫なんか、俺がつけさせないぜ?」
「…そういうお前が一番怪しいんだがな」
克己にそっくりでありながら性格は自分に瓜二つ。
あまりに似ているから、わが子ながら信用のできない龍也である。



「せめて高校でパパくらいに美人で可愛くて守ってやりたいって思える子が見つかれば、俺も諦めが付くんだけどな」
高校への通学にと用意されたリンカーンの中で、雷火がポツリと呟いた。
因みに運転しているのは良介である。
「雷火さん、それ…あんまり三代目の前では言わない方がいいですよ」
と一応釘を刺しておく良介であるが、
「でも、実際そうだからな。ああ、どうせなら俺が親父に似てればよかったのにな」
そうしたら、龍也の留守中に克己に夜這いをかけて自分のものにする自信があるのに ―― と、ある意味末恐ろしいことをサラリと言い放つ雷火である。
だが、
「あ、でも姉さんがパパ似だったら、親父に襲われかねないよな。それはマジでヤバイか」
と呟くと ――
「 ―― 別に、お父様がお相手なら、私は構わないけど?」
「「えっ?」」
真っ赤になってうつむく風花を、雷火と良介は驚いて顔を見合わせた。


Fin…?


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