『 飛島家の事情 』

− 飛島&悟の子供の場合 −


「責任取れよっ! 絶対っ!!!」
「勿論ですよ、悟さん、さ、落ち着いてくださいね」
まるで腫れ物のように扱う飛島に、更にもましてイライラする。
だが、これが落ち着いていられるかっ!
なんで、なんで…俺が孕むんだよっ!


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すがすがしい朝の日差しに目を開けると、なんともいえぬ美味しそうな匂いが鼻についた。
「ん…あれ? もう7時? ヤバイっ」
慌ててベッドから飛び降りて、素肌にバスローブを引っかけて寝室を出ると、
「あれ、もう起きたの? まだ寝てなよ」
「そうですよ。昨日は眠ったのが遅かったんですから」
決して狭くはないはずのキッチンであるが、大の男が2人も立てばいやでも狭く感じてしまう。
だが、当の本人達は全く気にした様子がない。
「だって、今日は衛(まもる)の入学式だろ? 衛だって支度とか…」
といえば、
「大丈夫、もうできてるから。じゃあ、悟さんはシャワーでも浴びておいでよ。その間に朝食の準備をしておくからね」
「そうですね。ああ、なんでしたら私が洗って差し上げましょうか?」
「あ、朝からサカルな、ボケっ!」
と真っ赤になって悟はバスルームへ飛び込んだ。
残されたのは誰が見ても親子だと確信するほどによく似た父親と息子。
「いいの? 行かなくて。昨夜も散々悟さんを啼かしたでしょ?」
と息子が言えば、
「一応、昨夜のうちに綺麗にしてあげたからな。そこまでするのが愛情というものだ。よく覚えておけ」
「了解」
子供が子供なら親も親 ―― というところか?



男の自分に子供ができた ―― と判ったとき、悟ははっきり言って半狂乱になっていた。
まぁ当然といえば当然である。
だが、子供というのは一人ではできない(その前に、男同士でもできるはずがないのだが ―― それはそれ)ので、少なくとも半分 ―― いや9割以上は責任のあるはずである飛島に詰め寄った。
「お前が孕ましたんだっ! 責任を取れっ!」
といわれれば ―― かえって嬉しかったのは飛島の方。
「勿論です。貴方もおなかの子も不自由なんてさせません。絶対に幸せにしますよ」
といって入籍・挙式・出産とめまぐるしく時は流れた。
その時生まれたのが、一人息子の飛島 衛(とびしま まもる)。
飛島自身は親の愛情に欠けた子供時代を過ごしていたため、どう接したら良いか不安であったが、逆に母親の愛情を一身に受けて育った悟はいい母親(?)で、衛はそれはもう悟に愛されて育っていた。
勿論、男親として飛島から教えられることも多々あって。
というか ―― 悟の護衛として?



「ああ、衛。悟さんは今日は喉を痛めてるから、紅茶はやめてホットミルクにしてくれ」
「…また痛めるまで啼かしたの? 父さん、それ、程ほどにしなよ?」
そんなことをさらりと言う息子も息子だが、
「そういうお前も、昨日は悟さんと風呂に入ったそうだな?」
と、ついさっきまでのさわやかな朝の気配などたちどころに消えていく。
「親子で風呂に入るくらい、何の問題もないだろ?」
「ならば、夫婦の営みにケチをつけるな」
飛島と衛はそれこそ外見もよく似ているが ―― それ以上に悟第一主義も瓜二つである。
だから、
「…いいから、さっさと朝飯を作れ!」
鶴の一声ならぬ悟の一声で、慌てて作業に取り掛かる親子である。
「全く、お前らと来たら…」
朝から親子喧嘩の仲裁に入る身にもなれと、悟は文句を言いつつ差し出された朝食を取り始める。
「メシを作りながらのケンカはやめろ。メシが不味くなるだろ?」
いや、突っ込むところはソコじゃないだろ? と飛島も衛も思うところだが、
「特に朝食って言うのはな、一日の初まりなんだぞ。判ってるのか?」
つまりは ―― 食事が美味ければ良いのか?と思わざるを得ないわけで ―― だが、反論など毛頭ないし。
「うん、そうだね。これから気をつけるね、悟さん」
「…判りました。気をつけましょう」
飛島家では、悟に勝てるものなど一人もいない ―― ということらしい。



「それにしても…」
入学式の会場の前で、事務手続きをしにいった飛島を待つ間に、悟はふと衛に声をかけた。
「ウチからだって通えるのに、何で寮にしたんだ?」
浅月学園の生徒はそれこそ全国区。なので地方から入学する生徒のためにも寮が完備されている。
勿論、近隣でも空きさえあれば入れるわけで、
「まぁね。これもいい経験でしょ?」
と言われれば ―― 悟も反対する気はない。
「そうだな。まぁ折角の高校生活だ。しっかり楽しむんだな」
とは ―― 高校・大学時代をバイトで費やしてしまった悟ならではのアドバイスでもある。
だが、
(チっ…父さんのヤツ。いつの間にか寮の手配なんかしやがって…)
と、実は本位ではなかったのも事実。
何せ家では影ながら、壮烈な悟争奪杯が繰り広げられている飛島家である。若干、子供である衛のほうが、何かと悟に厚遇されているのは事実で、これを期に一気逆転を狙う飛島の陰謀であることは間違いない。
だが ―― そこは衛も飛島の血を引継いでいるから、
「でも、週末には家に帰るからさ。そうしたらまた一緒にお風呂に入ろうね♪」
「そうだな、親子で裸の付き合いか。そういうのも良いな」
あくまでも「親子の付き合い」を楽しみにしている悟と、「裸の付き合い」を楽しみにしている衛とでは多少の差があるが ―― まぁそれはそれ。
(フン、父さんばっかりにいい思いなんかさせないぜ!)

高校生活第一日目。衛の決意はやはり悟狙い間違いナシである。


Fin…?


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