「ほ〜ら、伸治おじちゃんですよ♪」
生まれたばかりの赤ん坊に、日本語だって通じないだろうとは思うのだが
「姉さん、頼むからせめて『お兄ちゃん』にしてくれないかな？」
「あら、だって姉の子供は甥と姪。子供から見れば叔父でしょ？」
女性の一番美しいときは出産直後 ―― と言うらしいが、この姉に限って言えば、一番性悪としかいえない気がする。
だから、
「…判ったよ、育児を手伝えばいいだろ？　どうせ良介さんも三代目の子供の世話係決定らしいから」
がっくりとうなだれる吉岡伸治22歳。独身で彼女もいないのに子持ちになった瞬間であった。


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「いいか、二人とも。よぉ〜く聞けよ」
いきなり朝から何をしてるんだと、伸治が訝しく見ていると、
「この世の中は情報が命だからな。どんな些細なものでも構わん。それが後で役に立つこともある」
「はい、父サマ」
「後は使い方だ。利用できるやつは最大限利用する。多少の投資も構わんが、利潤をよく考えるんだぞ」
「了解です、父サマ。任しておいてください！」
「…って、何やってるんですっ!?」
聞いていたら、流石に末恐ろしさを感じて、伸治はその親子の会話に乱入した。
「なんだ、伸治。何のことはない、父親からの教訓だぞ？」
「そうよ、伸ちゃん。なに汗かいてるの？」
あっさり言うのは、一応父親である加賀山と、その娘である嵐（らん）の２人。
そして、
「だから…嵐や親父にはなに言っても無駄だって」
とは、もう一人の子供 ―― 息子の晴（せい）であった。



伸治の姉である深雪が妊娠したのは、丁度蒼神会の三代目、藤代龍也にも子供ができたと言われた頃。
「男の克己さんにだって子供ができたのよ！　あたしも欲しいのっ！」
そう言って ―― ホントにできるとは誰も思わなかったのは事実。
その上、
「加賀山組はね、藤代組を補佐すべき組なの。克己さんのお生みになった御子をお守りするのはあたしの子よっ！」
と、突然「姐」に目覚めたらしい。
「まぁ、いいんじゃないか？　それで深雪が満足するならな」
とは当の加賀山の意見で、一念発起した女には男が何を言っても無駄だぞと ―― そう、女の恐さは色んなイミでよく知っているから ―― 投げやりなことこの上なかった。
その上、まさか克己と同様に双子を産むとは ―― 女の一念は末恐ろしいと言ったとか言わないとか。
なお、深雪が産んだのは双子ではあったが、克己のところとは逆の兄妹で、
名前は加賀山 晴（かがやま せい）と加賀山 嵐（かがやま らん）と名づけられた。
但し、産んだのは良いが流石に双子の世話は大変で、しかも深雪には新宿の店「CRIMSON」もあったから、その育児全般は弟である伸治に任せられた。
尤も伸治の方も、どうせ克己の子供のこともある。おかげで良介と２人で４人の子供の世話となるわけだが、一緒に育てたはずが、流石にカエルの子はカエルというべきか。綺麗に性格は４人４様である。
龍也に瓜二つの外見で、性格は克己のように大人しい藤代風花。
逆に克己そっくりの外見で、性格は龍也の若かりし頃瓜二つの藤代雷火。
そして、
加賀山に良く似た一見イケメン風の加賀山 晴に、深雪に良く似た姉御肌の加賀山 嵐。
この４人は ―― それこそ生まれたときからずっと一緒で、本当に仲が良かった。
尤も ―― それだけではなかったが。



「今年の浅月学園には著名人が多数入学しているからな、ソコのところはぬかるなよ、嵐」
何を言っているんだと言いたい伸治であるが、この父娘のタッグに適うものは蒼神会の中でも皆無である。
「大丈夫よ、父サマ。ちゃんと晴にお願いして、ありったけの盗聴器をばら撒いてあるから」
「そうか。発信機はどうした？」
「めぼしい人物には付けられる様に手配したわ。既に職員にも手を回してあるの」
と、妙に嬉々として話している気がするのは、気のせいばかりではないはず。
「盗聴器とか発信機とか、作らされた俺の身にもなって欲しいよ、全く」
とは ―― そういいつつも頼まれては嫌と言えない晴で。
未だ15歳でありながら機械関係には加賀山も一目おく晴と、その集めた情報を余すとこなく分析し、再構築する嵐で。いわば加賀山の跡継ぎとしては最高の兄妹である。但し、
「そうそう、ちゃんと手を回して風花様と私は同じクラスになるようにしておいたわ。勿論、晴は雷火と同じクラスだから、ちゃんとお守りするのよ？」
「…って、あれ？　風花…様と雷火って同じクラスじゃなかったっけ？」
「そうとも言うわね」
「ってコトは4人とも同じクラスだろ？　ややこしい言い方すんなよ！」
「…だって、雷火の面倒はみたくないんだもん」


藤代家の ―― 特に、風花のためなら例え火の中水の中、どんなことをしても守って見せると豪語する嵐に、雷火のお守はつくづく御免被りたいと溜息をつく晴。
だが、この4人が将来の蒼神会を纏め上げることはいうまでもない ―― らしい。