May I help your sweet night ?

− 飛島&悟 −


剛志たちとは店の前で別れた悟と飛島は、大通りでタクシーを拾うとそのまま二人の職場兼自宅でもあるビルに戻ってきていた。
「…なんか、めっちゃ疲れたー」
そう言って部屋に戻るなり悟がソファーに沈み込むと、飛島はそれがまるで自分のせいであるかのように少し申し訳なさそうな顔をした。
「すみません、悟さん。兄の悪乗りに付き合わせてしまいまして…」
「ああ? いや、気にするなよ。アレで剛志さんだって、色々考えてのことだったみたいだしな」
「ですが…」
「いいって。俺が言ってんだから、な」
確かにいきなり「アダルトショップ」とは意表過ぎたが、それもこれも最愛のパートナーのためということは判っている。
(アレだけ惚気られちゃあな。剛志さんも、相変わらず逸弥さんにはゾッコンみたいだし)
好きな相手を思いっきり甘やかせてやりたいからなんて、それだけ相手が愛おしいという証拠だろう。それで、「アダルトショップ」という発想になるのは、なんで?としか思えないとしても、だ。
それに、
(剛志さんは逸弥さんもだけど…コイツにも甘えて欲しいんだろうなぁ)
詳しい事情は聞いていないが、剛志・隆志・智樹の三人兄弟には、色々と複雑な事情があるということは悟も知っていた。何せ、智樹とは母親が違うから苗字も違うというのはまだ判るが、剛志と飛島は両親が同じなにの苗字が違う。昔、ちらっと聞いたところでは、何でも飛島は幼い頃に母方の実家に養子に出されたからだとか言っていたと思うが、そういった大人の事情で振り回されたことを剛志は不憫に思っていたようで、自由が利く今は、その隙間を少しでも埋めたいと思っているようなのだ。だから ―― ある意味では麗しき兄弟愛とも言えるところだ。
尤も、当の飛島の方はそんな気は全くなく、剛志のブラコンぶりだけが空回りしている風も無きにしも非ずではあるが。
それはともかく、
「ま、悪気があったわけじゃねぇし。それよりも、逸弥さんのご機嫌取りの方が大変だろうな」
帰りしなの様子を思い出しても、それはかなりの苦労であることは間違いなさそうで。
まぁ自業自得であると言ってしまえばそれまでだが、つい気にしてしまうのも、悟の人の良さだろう。
実際、
「…そうですね。逸弥さんは、ああいう悪ふざけはことのほか嫌悪されてますから」
そう言って、実兄の無謀さに呆れる飛島であったが、ふと思い出した。
「そういえば、悟さんも逸弥さんも紙袋をお持ちでしたが…あのお店で何か買われたんですか?」
「ああ? あ、違う、違う。買ったんじゃなくて、カタログとか試供品だって。あの店長がくれたんだ」
そうなんの迷いもなく告げる悟だが、飛島の視線は怪しそうだった。
いや、悟がこれで試供品とかといったものは結構貰ってくるのが好きなことは知っている。
だが、貰ってきた場所は、例の「アダルトショップ」であるから…。
(まさか、悟さん…私では物足りないと思っていらっしゃるとか?)
そんなことを疑わしく思ったことに気がついたのか、
「…お前、何かものすごーくイヤな想像してねぇ?」
「いえ、そんなことはないですが…」
「言っておくが、くれるっていうから貰ってきただけだぞ! それ以上もそれ以下も意味はねぇからなっ!」
そう真っ赤になりながらも言い張るのは、やはり貰ってきた場所が悪かったと自分でも思い出したのだろう。
元々悟はどちらかといえば、性欲に関しては淡白なほうだ。
一応、女性との経験もあるようだが、それも飛島と出会う前の高校生のときに数回というレベルだったと言うはずで、寧ろ女の子と付き合って遊ぶよりは、バイトとか、亡くなった母親への孝行の方がはるかに大事と思っていたものである。
それに、
「そ、そりゃあ、あそこはああいうモノも扱ってるみたいだったけど…メインはどっちかってぇと癒し系のグッズの方が多かったじゃないか! だから、カタログとか試供品っていっても、ああいうものばっかとは限らないだろっ!」
といいながら、紙袋の中身をぶちまけた。
実際、入っていたのはごく普通のアロマキャンドルやハーブティにサプリメントに見える試供品。それに、パラパラとめくったカタログもそういったものの方がはるかに掲載ページは多そうで…
「ほら、見ろ。大体お前はヘンな想像ばっかしすぎなんだよ」
「ですが…悟さん、これ…」
「全く、お前は妄想しすぎなんだよ。考えすぎだって!」
そう言って否定しまくると、ついでにそれを証明するように、何気に身近なサプリをポイっと口に放り込んだ。
勿論、飛島が止める暇もない。
「え? あ、悟さんっ!」
「ん? な…っんだよ」
慌てて飛島が声をかけたため、悟はちょっとむせながらもつい一気に飲み込んでしまった。
それを、飛島が呆然と見守り ―― 慌てて、悟の肩を揺すった。
「飲んじゃったんですかっ!」
「あ、ああ。ったく、お前が大声上げるから…喉に引っかかったじゃないかっ!」
「出せますか?」
「なわけねぇだろ。水っ!」
「ですが…」
「いいから、早くっ! 喉、苦しいっ…」
そう言ってゴホゴホと咳をするのは本当に苦しそうで。
仕方がなく飛島がコップに水を汲んでくると、それを奪うようにして悟は飲み干した。
そして、
「あー死ぬかと思った。おまえなぁ、急に大声出すなよ」
「…大丈夫ですか?」
「ああ、なんとか、飲み込めた。やっぱ水ナシはだめだな」
サプリメントの類は結構飲むことの多い悟だが、基本的に錠剤を飲み込むのは苦手である。だからいつもは飴のように飲みこまないで口で溶かしてということが多かったのだが、これはつい飲み込んでしまったらしい。
だが幸い、なんとか飲み込めてほっとしたのだが、
「いえ、その…身体の方は?」
「いや、別に? …なんで?」
何でそんなことを聞くのだろうと悟が不審そうに尋ねると、
「悟さんが今飲まれたの…一見はサプリに見える催淫剤です」
そう言われて、目が点になった。
「嘘…だろ?だって、どう見たって…」
「『恥ずかしがり屋のパートナーへのお勧め品。見た目では普通のサプリメントにしか見えないので、抵抗なく使用ができます』…って書いてありますね、注意書きに」
「遅ぇよっ!」
咄嗟にそう怒鳴った悟だが、その瞬間、身体に力が入らなくてクラっと揺れた。
勿論、それをそのまま倒らせる飛島でもなく、
「大丈夫ですか?」
「…な、わけ…あ…るかっ」
キュッと掴んで潤んだ瞳で見上げられては、このままにしておくのが却って酷というものだから、
「悟さん、今、楽にして差し上げますからね」
そう囁くと、そのまま悟の身体を抱き上げてベッドへ向かった。



服を脱がせるのももどかしいのか、悟は全く抵抗することはなく、
「やっ…たか…し…っ」
いつもなら、ギリギリまで呼ぼうとしない名前で強請ってくる。
「私ならここです、悟さん」
そう囁くだけでもゾクゾクと感じるようで、既に硬く当たっている悟のモノも切なげに涙を流しているようだ。
それを確認するようにそっと指の腹でなぞれば、それだけでも悟は我慢ができないようで、
「はや…くっ…」
ぎゅっと飛島の腕にしがみつくと、潤んだ瞳で見上げていた。
いつもの気の強くて意地っ張りな姿からは想像できないような可愛らしさで、必死に強請る姿も愛おしい。
ただ、なんとなく飛島にとって気に入らないのは ―― それが自分がそう仕向けたのではなく、無粋なクスリのせいだということだ。
悟が望むなら何でもやれるしやってみせると自負する飛島だが、その一方で悟に対する独占欲は並大抵のことではない。そんな飛島だから、クスリのために欲しがられていると思うことは ―― なんとなく気に入らないのだ。
尤も、こんな状態になっても自分で何とかするという考えは悟にはなく、最初から飛島が「欲しい」と言ってくれる事には嬉しくないはずもないのだが ―― それはそれ、である。
だから、そんな矛盾する葛藤のせいか、自然と焦らすように悟の胸を撫で上げれば、
「そこじゃっ…早くっ…来い…って!」
既に切羽詰っているのか、悟は涙を浮かべながら飛島に強請った。
「辛いんですか? 悟さん」
「う…んっ…ねがっ…い。焦らすな…っ」
「焦らしているつもりはないのですが…」
いつもなら、ギリギリまで平気な振りで耐えようとする悟を、それこそ身も心もドロドロになるまで溶かして強請らせてから開放する飛島である。だからこうも簡単に強請られてしまうとなんとなく物足りなく、
「もう少し我慢してくださいね。ちゃんと解しておかないと、貴方を壊してしまいますから」
そう言ってまだ硬い蕾に触れようとした。しかし、その時、
「そんなんっ…いいからっ!」
ポロポロと涙を浮かべて、悟が叫んだ。
「お前なら…隆志になら、壊されてもっ…いいからっ!」
「悟さん…?」
「早く…来いよっ。お前が欲しいんだって…!」
そうまっすぐ睨みつけるように言うと、カッと頬を染めてプイッと枕に顔を押し付けた。
そしてそのままうつ伏せになると、
「バカ隆志っ…俺に…こんな…恥ずいこと、何度も…言わせるなっ…!」
枕のせいでくぐもった声ではあるが、そう悔しそうに呟く声が飛島の耳にも確かに聞こえた。
きっかけはクスリのせいかもしれないが、それでも悟の心には偽りなどないはずで。
自分を望んでくれているということは ―― やはり嬉しい。
だから、
「なっ…隆志っ!」
綺麗な背中のラインをキスで辿って、腰だけを高く引き上げると、固い蕾に舌を這わせて、
「やだっ…おかしく…」
耐え切れない疼きで涙声になる悟を宥めるように解していくと、負担にならないように指を突き入れてゆっくりとかき回し始めた。
「いやぁっ…あっ…ああっ…!」
白い背中が弓なりに反って、その反動で悟の蕾が飛島の指を深く咥え込む。
それがいつしか二本、三本と増えてクチュクチュと卑猥な音を立て始めていたが、それでも指なんかではとても満足できなくて。
「やだぁっ…たかしぃっ! もっと…もっとぉ…!」
「ええ、すぐに私で一杯にしてあげますからね」
そう嬉しそうに囁くと、飛島は指を引き抜いて自分の楔を悟の蕾に宛がった。



*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*



―― 幾つか、当店のお勧め品を同封します。注意書きをご参照の上、お試しいただけますと幸いです。
そんなメッセージカードに飛島が気がついたのは、その翌日のことで。
ベッドから起き上がることもできない悟のために朝食 ―― というか、時間的には昼食に近い ―― を用意しながら、飛島は昨日の店に電話をかけた。
「すみませんが…今後はもう少し注意書きが大きく書かれているものを試供品にしていただけますか?」
突然そういわれたオーナーは、一瞬何のことかと思いながらも、
『まぁ、それは失礼いたしました。はい、気をつけさせていただきます』
殊勝にそう応えると、それ以上は非難する気もなかったようで、電話はあっさりと切れてしまった。
勿論、その日は一日、飛島が悟の側から離れなかったのは言うまでもない。
その一方で、
「注意書きが大きく書いてあればいいのかしら?」
と突っ込みを入れたいところだが ―― それはやはり控えておいて、
その上、
「でも、本当に注意書きが読めなかったのかしら? もしかしてわざと…ってこと、ないのかしらね?」
意地っ張りな悟だったらそれも ―― と想像してみたということは、あくまでも内密にしておいたとのことだった。




Fin.


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