May I help your sweet night ?

− 剛志&逸弥 −


悟たちとは店の前で別れたると、逸弥は全くの無表情でお抱えの運転手を呼び寄せた。
「マンションに戻ります。よろしいですね?」
前半は運転手に、後半は ―― 勿論、剛志への確認である。
「あ、ああ」
「社には連絡を入れますが、会長の方で何か御用はありますか?」
「いや、特にない」
「そうですか、判りました」
一見いつもと変わらないようなビジネスライクな会話だが、剛志にしてみれば冷や汗モノの気拙さである。
(うっ…これは、マジに怒ってるぞ…)
例えば仕事をすっぽかして遊びに付き合わせたりしたときは、それの片が済み次第、まずは会社に戻るというのが逸弥の定番である。
それで結局残業になって、休んだ以上の仕事をさせられるのがいつものパターン。
ところがこんな風に会社にも寄らずに帰るというときは ―― そう、思い出せば前にも一度あったはず。
(あの時は…確か…)
あれは確か、煩い親戚連中を黙らせるために逸弥には強引に協力してもらったときのことで ―― あのあと、自宅に戻ってからはマンションを出て行くと言い出して大変だったのを思い出した。
ということは、まさかと思うが、今回も…?
そう思い出せば ―― ここは謝り倒すしか剛志に道は残っていない。
「あ、あのな、逸弥…」
そう思って、恐る恐る声をかけたのだが、
「 ―― すみません。電話をかけますので、お話でしたら後にしてください」
まさに「けんもほろろ」とはこのことかと、冷たくピシャリと言われてしまっては、仮にも会長職で逸弥の上司に当たるはずなのだが ―― そこは強く言えないものである。
「そ、そうか。悪かったな」
だから素直にそこは謝ってみせたのだが、逸弥は全く気にした様子もなくて。そんな冷たい態度に、剛志はがっくりとしょぼくれたように視線を窓の外に反らした。
(拙いぞ…これは、かなーり、ヤバイ。まさかこんなに怒ると思わなかったんだけどな…)
と思ってみても ―― それこそ「時、既に遅し」というもの。
後悔先に立たずとか、覆水盆に帰らずとか、そんな諺が頭を駆け巡るが役立つものなどありもしない。
それどころか、益々落ち込む原因にしかならなくて、
(謝り倒すしかないって言っても…謝らせてもくれなかったら、どーすりゃいいんだ!)
勿論一番悪いのは、そもそも今回の事を企んだ自分だということも判ってはいる。
だが、それもこれも、本人は全く悪気がなくて、ただ、逸弥を思ってのことだったのだが ―― そんなことを聞いてくれるとは到底思えない。
だから、
「はぁ…」
自然とため息が漏れてしまった剛志だが、そんな剛志を困ったような表情で逸弥が見ていたことなどは、全く気がついていなかった。



そして車は非情にもマンションの前に止められて、剛志は内心ビクビクとしながら最上階の自分達の部屋に戻っていった。



全くいつもと変わらない雰囲気で逸弥が鍵を開け、剛志のためにドアを開く。
「どうぞ」
「あ、ああ…」
玄関から先に剛志が中に入れば、これまたいつものように逸弥が剛志の靴を揃え直してから自分も部屋へと付いてきていた。
(…良かった。取りあえずは大丈夫だな)
実は一度、一緒に帰ってきたのに玄関のところで「では失礼します」といって逃げられそうになったことがあったので、かなりドキドキとしていたのである。
勿論それならば先に逸弥を中に入れさせればとも思うのだが、それはそれで不毛な言い合いになりかけたことも経験済みだったのだ。これ以上、機嫌を損ねることは、流石にしたくはないというもの。
しかし、
「お着替えになりますか?」
「え? あ、ああ、そうだな」
「こちらの上着はどうしましょう? クリーニングに出しましょうか?」
「ああ、そうするか」
余りにいつもと変わらない感じだったので、つい剛志もいつものように応えて ――
(あれ? 怒ってない…のか?)
絶対にそれはありえないと思っていたが、それにしては普通すぎる。
何せ逸弥は業界でも名高いクールビューティで、確かにそう簡単に喜怒哀楽を表に出すタイプではない。だが、それでも剛志には割りと見破られるものだったのだが ―― それにしても普段とあまり変わりはなかった。
(いや、そんなはずはないだろ。逸弥はあーゆーのはかなり嫌いだし、店でもめっちゃ怒ってたしな…)
と思うのなら最初からしなければいいのにと、この場にはいないが、隆志や智樹がいれば絶対に言われていただろう。
まぁそれはひとまず置いておくとして。
「あ、あの…な、逸弥…」
やはりここはきちんと謝っておくべきと思った剛志が振り向くと、
「服を片付けてきますので、会長はシャワーをお先にどうぞ。着替えもお持ちします」
そう言ってさっさとクローゼットの方に行かれてしまったので、仕方がなく先にシャワーをすることにした。



そして、数分後 ――
(よし、ちゃんと謝るぞっ!)
シャワーを出て頭をすっきりとさせると、そう覚悟を決めてリビングに戻った剛志だったが、
「あれ?」
そこには逸弥の姿はなく、まさか出て行ってしまったか!と慌てた剛志だったが
『ああっ…んっ…』
玄関に向かいかけて書斎の前を通ったとき、聞き覚えのない声が耳に入って、立ち止まった。
(え?)
どう思い出そうとしても聞き覚えはないが、その声はおそらくアノ最中の声としか思えない。
だが、
『ここがいいのか? ほら、もっと感じてごらん?』
『やっ…恥ずかしいよぉ…』
声は二人。だが、どちらも逸弥の声ではないし、そもそも聞き覚えは全くない。
それにそっと声の聞こえてきた書斎を覗いてみれば、逸弥はこちらに背を向けて座っていた。
そう、仕事用のパソコンの前に。
(え? じゃあ…)
別に出て行ったというわけではないようだが、では ―― と思って、静かに部屋に入って声をかけると、
「い…つや?」
「あ…はいっ!」
吃驚して立ち上がった逸弥はいつもの冷静な姿からは想像できないほどに慌てていた。
それを不思議そうに見ながら、
「何やってるんだ?」
「あ、あの…いえ、その、これは…」
透けるようなと言われる白皙を真っ赤に染めた上に、まるで初心な少女のように慌てふためいて。
一体何事かと剛志が思ったその時、
『でも、ココが気持ちいいんだろ?』
『いやぁっ…ダメっ…いいっ…いいよぉっ…お兄ちゃんっ!』
逸弥のパソコンから、艶っぽい声が響き渡っていた。
どう見てもそれは ―― 俗に言うアダルトビデオ。それも絡み合っているのは男同士である。
「あ、あの、これは…」
「ふぅん…『甘えたいの』ね」
机の上に置かれたDVDのケースに書かれたタイトルを見て、隆志はフッと苦笑を浮かべた。
因みにサブタイトルは、
『可愛く甘える方法をお教えします』
その上、机の側に置いてある紙袋には見覚えがあり、隆志の脳裏には楽しそうに微笑む某店のオーナーの笑顔が浮かんでいた。
そう、それは、先程逸弥を怒らせてしまった元凶ともいえる店で。
カタログや試供品を入れておきました、と言われてと貰ってきたといっていた紙袋で ―― となれば、
「…とんだ試供品だな」
「…」
恐らく、逸弥としては剛志がシャワーをしている間に、何が入っているのかと中を改めたのだろう。
とはいえ、こういったものは苦手な逸弥のはずだから、中に入っていたDVDを見ていたのは驚きだったが。
しかし、
(え?)
別に咎めたつもりはなかったのだが、気が付けば逸弥は今にも泣きそうなほどに頬を赤らめて瞳を潤ませていた。
それは、こんなものを見ていたということを見つかって恥ずかしいといった感じではなく、
「…逸弥?」
そっと朱に染まった頬に触れると、逸弥は僅かに震えながら呟いた。
「だって…だから…」
「ん? 何だ?」
「私は…甘えるなんてできませんから。それが…ご不満なんですか?」
「え?」
そう悔しそうに呟くと、スッと頬を涙が滑っていた。
「私には無理です。甘え方なんて知りませんし…」
「逸弥」
「でも、だからって、ああいうものは…。だから、甘えてくれる方が良いのでしたら、他の…」
そんなことを、細い肩を震わせながら言う姿は余りに儚くて、剛志は思わずギュッとその腕に抱きしめた。
「か、会長?」
突然抱きしめられた逸弥が驚いて声を上げるが、剛志も離す気はなくて、
「馬鹿だな、お前だから甘えて欲しいと思ったんだよ」
「会長…」
「知らないなら、こんなものを見なくても ―― 俺が一から教えてやるよ」



「あっ…ん…も…ダメ…」
「もう? まだ早いぞ。じゃあ、こっちは…?」
「やぁっ…そんなっ…ああっ…」
キングサイズのベッドの上で、逸弥はイヤイヤとするように髪を振り乱して首を振る。
「やめっ…ダメですっ…も…んっ!」
細い足を両肩に担ぐようにして、晒された雄茎をピチャピチャと音を立てながら舐めあげて。
そのうえ、慎ましやかな蕾をゆっくりと解すように指でなぞれば、余りの快感に逸弥は涙を流しながら懇願した。
「ああっ…ん…かい…剛志さんっ!」
元々敏感な対質な上に、性感帯といわれそうなところは全て弄られ済みである。もう、息がかかるだけでもゾクゾクと耐えられないというのに、剛志は更に逸弥の感じる部分を優しく刺激し続けていた。
それはじれったいほどの優しさで。
あとほんの少し。ちょっと痕を残すくらいにキスでもされればイッてしまいそうなほどだというのに、そのギリギリのところで止められているのだから ―― 気が狂いそうだ。
だから、
「も…イキた…い…っ」
「んー、もうちょっと、な」
「そんな…ああっ!」
既に剛志に舐められただけではなく濡れそぼった逸弥自身は、その根元を押さえていてもらわなければいつ爆発してもおかしくないほどで。
それに剛志の指を咥え込んでいる蕾も、もうそれだけでは我慢できないように淫らに蠢いている。
そろそろ限界なのは明らかで ―― 勿論それは剛志自身も、だ。
だから、
「どうしてもイきたいか?」
「んっ…はいっ…」
「じゃあ、欲しいって言ってごらん。俺が欲しいって」
「なっ…ああっ…!」
そんな意地悪を言ってみれば、流石に恥ずかしくて一瞬躊躇った逸弥だったが、
「欲しいっ…剛志さんが…っ!」
既に限界の逸弥は、そう涙を浮かべて訴えると、縋るように手を伸ばした。
その手を自分の背中に回させて、
「いい子だな。そうやって甘えてくれればいいんだぜ?」
そう囁くと、剛志は一気に楔を突き入れた。
「やぁっ!」
「くっ…イクぞ」
「はぁっ…ああっ…ああっー!」
ぐちゅぐちゅと激しく突きいれて、逸弥が果てた後も何度もその中に精を放って。
「でも、甘えるのは俺だけにしてくれな」
眠りに着く前にそう囁いた剛志だが、その声が逸弥に届いていたかは怪しいところだった。



*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*



―― 幾つか、当店のお勧め品を同封します。お役にたてると光栄です。
そんなメッセージカードに剛志が気が付いたのは、翌日、会社に休みの連絡を入れたあとで、
「役にねぇ…ま、確かに」
そう呟くと、早速書かれていた番号に電話をかけた。
「昨日はどうも、試供品をありがとうございました。しっかり役に立たせてもらいましたよ。ああ、でも…次は主従モノの従受けでお願いしたいですね。それで、できたらオフィスとか、会議室とか…あ、出張先でなんていうのもいいな」
そんなことを告げれば、返って来た声はいかにも楽しそうで。
『はい、かしこまりました。それでは幾つか見繕って、メールでご連絡しますわ』
そう応えて電話を切ると、オーナーはふと思いついてネット販売部担当の智樹に電話をかけた。
「あ、智樹君? この前のネット配信の件だけど、もうちょっと早くスタートできないかしら?」




Fin.


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