002 しらんぷり (尚樹×祐介)


「おいで、祐介」
優しく差し出された腕を取ると、すぐに引き寄せられてキスをくれる。
「今週は会えないと思ってたんだけどな。大丈夫なのか?」
テスト期間だから、そう言ってこの前は泊まらないで帰ったものね。でもね、
「僕、これでも優等生だから。慌てて試験勉強なんてしなくても大丈夫なんですよ」
「そうか。ま、いいさ。もしも成績が下がってたら、俺が手取り足取り教えてやるよ」
そういって笑う尚樹さんはとても優しい。
そう、僕にはいつも優しい。
だから、僕はこの人に甘えるだけ。
何も見ない、何も知らない。
あなただけ ―― 僕を見てくれるときの、貴方だけを見ている。



「あの…今日は泊まってもいいですか?」
ソファーに押し倒されて、手馴れた仕草で服を脱がされる。
「ああ、いいよ。俺は明日は2限目からだから…学校まで送ってやるよ」
「ありがとうございます、尚樹さん…大好き」
「…可愛いな、祐介は」
そう言って、ちょっと寂しそうな顔をする。
だめだよ、そんな顔をしちゃあ。僕とあの人を比べているのが判っちゃうじゃない。



「あ…んっ、そこ…だめ…」
プツっと立ちあがった胸の突起を指で摘みながら、尚樹さんの息を首筋に感じる。パサリと感じる濡れた髪に、湯上りのシャンプーの匂い。
締め付けられる心が ―― 痛い。
僕が来る前に、シャワーをしていた ―― あの人と? ううん、それは違うね。だって下で見たもの。
以前ここに住んでいたあの人が、疲れた顔をして車に乗り込むところ。
きっと、尚樹さんがシャワーをしている間に帰ったんでしょ?
でもその前は ―― あの人と一緒だったんですよね?



ちらりと視界に入った寝室は、掛け布団が床に落ちている。
酷く乱れたシーツに、そこで何をしていたかは ―― 判っちゃうよ。
でもいいの。僕、ちゃんとしらんぷりできるから。
そうしたら、貴方は僕に優しくしてくれるでしょ?
だから今はここで抱いて。何も考えられなくなるくらい。
あの人の代わりでも…いいから。



僕の心も、貴方の心も。
みんなしらんぷりして…しまっておくから。




Fin.


2003.09.16.

Melty Dark