007 傷口 (尚樹×祐介)


ふと夜中に目が覚めて、僕はゆっくりと瞼を開いた。
途端に飛び込んでくる、愛しい人の横顔。
もう何回も見ているのに、何回見てもこのドキドキは決して押さえられない。
だから、そっと寝返りをして反対を向いた。
すると、
今度は腕枕をしてくれている腕に残る、傷跡が視界に入った。
もうすっかり治ってはいるけど、ちょっと他よりは薄いピンク色の痕が斜めに走っている。
僕のために、この人が負ってくれた傷跡。
唯一、僕がアナタに残せるもの。



「…気になるのか?」
背中から抱きしめられて、耳元でアナタが囁いてくる。
無意識のうちに、何度もこの傷跡を撫でていたみたい。
くすぐったいのか、アナタはクスリと微笑んで、僕の背中がアナタの胸と密着する。
「ごめんなさい、起こしちゃいましたか?」
「いや…」
「この傷…痛かったでしょ?」
僕が始めてみたときは、もう白い包帯に包まれていたから、どんなに血が流れたのかは知らない。
でも、痛かったはずだよね。こんなに痕になってるんだもの。
「さて…もう忘れたな」
「嘘。僕に気を使ってるの?」
「そんなんじゃないさ。実際、かすり傷だ。大したことは無い」
「でも…」
言いよどむ僕に、アナタが腕を抜いて覆いかぶさってきた。
「じゃあ、お前の熱で癒してくれ」
「あっ…」
深く口付けて、アナタが僕を貪り食う。
アナタにあげられるものなら、何でもあげる。僕はアナタのものだから。
でも ―― 例えばこの傷が消えてしまっても、アナタは僕を忘れないでいてくれますか?




Fin.


2003.10.31.

Melty Dark