010 双子 (尚樹&政樹)


尚樹がベッドルームに戻ってくると、そこにはもう一人の自分が待っていた。
同じ顔、同じ声、同じ ―― 。
外見は瓜二つ。その身体を作る遺伝子も同じ。ただ ―― 心だけが全く違う、もう一人の自分。
「政樹…」
「尚樹、お前…」
何か言いた気に ―― いや、言いたいことは山のようにあるはず。
でもそれを口に出すことはなく、政樹は一瞬止めた仕事を、再開することに専念していた。
だから、尚樹もただ黙ってそれを見ている。
意識がなくなるまで陵辱しつくした克己に、服を着せるという行為を ―― 。



やがて、
「どうするつもりだ?」
服を着せた克己を抱きかかえた政樹に、初めて尚樹が声をかける。
「連れて帰るに決まってるだろ。ここには…置いてはおけない」
「…で、今度はお前が抱くか?」
椅子に座って足を組み、余裕の表情の尚樹がそう煽ると、流石に政樹もそれ以上は我慢ができなかった。
「貴様 ―― !」
―― バシッ!
殴りかかった政樹の腕を、尚樹は反射的に捕らえる。するとすぐさま政樹の蹴りが尚樹の腹に入りかけ、しかしそれを尚樹は逆の腕で遮った。
―― バキッ!
腹を直撃されていれば、恐らく立ってはいられないほどの衝撃のはず。それを腕一本で押さえたのは尚樹ならではであるが、流石に無傷とはいられない。
「痛っ…やってくれるな。折れてはないだろうが…ヒビは入ったぞ」
「だろうな。じゃ、今度は確実に折ってやろうか?」
普段は温厚で愛想の良いだけに、怒らせると厄介とは生まれたときから知っている。
何せ ―― 双子の兄弟だ。たまに親だって間違えるほどの。
唯一、絶対間違えなかったのは克己だけ。
その克己を ―― 。
―― 双子の兄である、尚樹が陵辱した。



「お前だって、克己兄さんに惚れてるだろうが?」
尚樹は荒んだ瞳で政樹を見上げた。
「あんなヤツにみすみすくれてやるつもりか? 俺は親父やお袋とは違う。大事なものは絶対に手放さない!」
「それで…克己兄さんの心が手に入るならな」
掴んでいた胸元をあっさりと離し、政樹は克己の身体を抱き上げた。
「こんなことをして、克己兄さんがお前を許すと思うのか?いや…克己兄さんなら許すかもな。でも、心は手に入らない。絶対にな」
「そんな…綺麗事だな」
「ああ…でも、笑わない克己兄さんなんか見たくない」



例え嫌われて、憎まれても手にいれたいと思う尚樹。
例え自分を見なくても、笑っていてくれればそれでいいと思う政樹。
同じ遺伝子なのに、どこでその歯車が狂ってしまったのか。
狂わせた天使は ―― ただ静かに眠るだけ…。




Fin.


2003.12.14.

Melty Dark