013 球状星団M13 (飛島×悟)


ベランダに出て夜空を眺めていた悟が、ふと呟いた。
「そういやあ、あれ、何ていったっけ? なんとか星雲…星団?」
頭上に輝く星々の間に、ぼんやりと霞がかったような一団が見えている。
飛島もバスローブを引っ掛けると、悟の側に来て指差す方向を見上げた。
「あれは…ヘラクレス座のM13ですね。北天…いえ、全天一美しいとも言われている球状星団ですよ」
そう言って博識を語るのは他の人間がやると嫌味にしか聞こえないものだ。
しかし、何故か飛島がやると素直に聞いてしまうのは ―― その声が耳に甘いからかもしれない。
「50万個もの星からなる大星団で直系は100光年。地球からは2万3000光年の距離があるそうですよ」
「ふぅ〜ん。なコト言われても実感ないな。ま、すっごく遠くってことか」
「そうですね。そういえば、アレシボ・メッセージも確かM13に向けて発信されたんですよね」
「は? 何だ、それ?」
星を見るのは好きだが、あくまでも「眺める」という程度の悟とは異なり、飛島の博識は歩く百科事典にも近いところがある。
「確か…1974年でしたか、プエルトリコのアレシボ天文台からM13に向けてメッセージが送られたんですよ。2進法の信号で人間や太陽系の紹介をね」
「宇宙人へのメッセージか? 通じるのかよ?」
「さて…勿論、返事があったという発表はありませんからね。大体、メッセージだってまだ届いてませんよ。何せ2万3000光年離れてますから」
「あ、そうか」
2万3000光年も離れていて、しかも50万個もの星々からなる大星団。
その中に、かすかなメッセージを受け止めることができるものが果たしているのか ―― ?
そもそもメッセージを出した人へ返事が来るものはるか未来の話だから。
壮大なスケールというか、儚い夢と言うべきか。
そして ―― そんな星空の下に立つ悟は、どこか遠くに行ってしまいそうなほど儚げに見えた。



飛島がシャワーから出てきても、流石に疲れきっていた悟はベッドに沈むようにぐっすりと眠り込んでいた。
はだけたバスローブから覗く肌には朱色の花びらがちりばめられ、それまでの行為の激しさを思い出す。
「すみませんね、手加減できなくて」
そっとそう囁いても、深い眠りに付いた悟は身動きすらしない。
だからその身体を抱きしめて、飛島は眠る悟に誓いを立てた。
「もしも生まれ変わって貴方がM13に行ってしまっても、私は必ず貴方を見つけ出しますよ」



例え何万光年離れていても、何万の星に遮られてtも。
必ず貴方を探し出す。
貴方が「ここにいる」というメッセージなら、自分には必ず届くから ―― 。




Fin.


2004.02.07.

Melty Dark