ぐったりと意識を失って眠る克己に、龍也はそっと口付けた。
痛々しいまでに肉の落ちた腕はちょっと力を入れれば容易く折れてしまいそうで、薄い胸も骨を浮き上がらせてわずかに上下しているという感じである。
元々白かった肌は、今は病的なまでの青白さで、滑らかな皮膚を切り裂いても、赤い血は1ミリも出ないのではないかと思ってしまうほど。
ただその唇だけが妙に紅くて ―― だが僅かに開いたその唇からは、終に何の言葉も洩れることはなかった。
どんなに乱暴にその身体を蹂躙しても、逆に快楽を与えようと優しく抱きしめても。
何も映さない瞳は虚空を漂うだけで、決して自ら何かを見ようとはせず。
なすがままの身体は、どんなに激しく抱き貫かれても決して自分から動こうとはせず。
何も感じない。
何も見ない。
何も ―― 聞こえない。
ここにいるのは、ただ綺麗なだけの人形のようだった。
微笑む克己が好きだったのに。
全てのものから守ってやることが望みだったのに。
どこで間違えたのだろうと思ってみても、
それでも ―― そうしたのが己であっても、克己を手放すことは最早できない。
「そう…お前は絶対に手放さない。例えこのまま息絶えても。死体になっても犯し続けてやる」
全てが欲しかったから、奪って、犯して、己のものにした。
だから、一人で死ぬなんて許さない。
死んでも手放す気は毛頭もない。
灰になどさせるものかと心に誓う。
「愛している」なんて言葉が免罪符になるとは思っていない。
だが、克己は己のものだから。
それが ―― 大人になれない自分の弱さだと、思い知らされても…。
Fin.
2004.05.23.