秋桜:01 ねこのしっぽ (慶一郎×直哉)


パタパタパタ ――
鼻先をくすぐるようなふわふわとした感触に、俺は眠い眼をこすって漸く開けた。
その瞬間、視界には真っ白な毛並みが広がり、細長いモノが鼻先でパタパタと動いている。
「ん…あ、ルー?」
雪のように白い毛並みのモノといえば、我が家では最近富に我侭になってきた居候の子猫だ。
尤も、コイツには洩れなく最愛の恋人まで着いてくるから、あまり邪険にはできないのだが。
しかし、
「こら、ルー。お前…どーいう向きで割り込んでるんだ?」
そもそも、ベッドに割り込んでくると言うのも許せないのに、人の顔を尻尾で撫でるとはどーいう了見だと思わずにはいられない。
しかも、その割り込み方と来たら ――
「ちょっと待て、お前、何やってる?」
「みゃあ?」
「誤魔化すな。今、直哉にキスしてただろ?」
「みゃあ、みゃあ」
「猫の分際で、いい度胸だな?」
こう言っている最中も、俺には尻尾で牽制したまま、白猫のルーは直哉の頬にすり寄るように甘えている。
「このっ…!」
首根っこ捕まえて引き剥がしてやりたいところだが ―― なにせ右腕は直哉を腕枕してやっているから動かせない。
では左手はというと ―― こちらも直哉が気持ちよさそうにすがり付いて眠っているから、起こすのはいただけない。
流石に昨夜は無理をさせたから、疲れきって眠っている直哉はちょっと顔色が悪いのも事実。
もっともその分だけ気持ちよくさせてやったと言う自信はあるが ―― 。



「ん…や…ん、くすぐったいよ…」
ペロリとルーに鼻先を舐められて、流石に直哉もくすぐったくて目を覚ます。
と同時に俺はルーごと直哉を抱きしめると、覆いかぶさるようにして唇を重ねた。
「ん…あ? 慶一郎…?」
「オハヨ、直哉。身体、大丈夫か?」
「え? あ…///」
さっと白皙を朱に染めたのは、昨夜の行為を思い出したからだろう。
構わず抱きしめると、流石に苦しくなったのかルーは慌てて俺たちの間から這い出て行った。
(フン、まだまだ甘いな)
「あれ? ルー、もぐりこんでたの?」
「ああ。らしいな。でも、俺たちの邪魔をするほどの我侭猫じゃないからな」
「邪魔って…ルーは慶一郎が大好きなだけだよ?」
いや、それは絶対に違うと思うんだけどな。



再び俺の腕の中で直哉が眠ってしまうと、流石に割り込むことは諦めたらしい。
枕元で蹲って、尻尾だけをパタパタと俺の頭にぶつけている。
「諦めろって、コイツは俺のだから。お前も可愛いメスネコを探して来い」
「にゃああ〜ん」
パシパシと尻尾で俺の頭を叩きながら、ルーは「余計なお世話!」とばかりに一鳴きした。




Fin.


2004.03.27.

ANDANTE