薔薇:01 留守番電話 (巧×和行)


―― RRR…カチャッ
『こちらは、○○です。ただいま電話に出ることができません。御用の方は…』
抑揚のないオリジナルメッセージにチッと舌打ちをすると、俺はとっとと携帯を閉じた。
今日は職員会議がある日で、会議中は携帯のスイッチを切っているのはいつものこと。
でも…それが判ってても声が聞きたい時だってあるんだよね。
「出るまで掛け捲ってやろうか?」
なんて思うけど…電源が入ってなくちゃ意味ないね。
留守番電話に吹き込むのはキライだし、さてどうしようか?



―― RRR…カチャッ
『こちらは、○○です。ただいま電話に出ることができません。御用の方は…』
「あれ? まさか充電し忘れたとか言わないよな?」
珍しく留守番電話に繋がったので、訝しく思ってつい番号を確認する。
でも、携帯に表示されている番号間違いなく、アイツの番号で ―― そんなうちにメッセージを録音する準備ができてしまった。
「あ、俺だ。今、会議が終わったからこれから帰る。またあとで連絡するぞ」
といって切ると、表示画面にメッセージありのマークが出ていた。
(珍しいな。留守電はキライだって言ってたのに)
そう思ってメッセージを確認したら…
『早く帰ってこないと、浮気してやるーっ!』
…一瞬にして巧の顔色が変わった。



(アイツは…また、なんてことを!)
愛想のない声がメッセージの入った時間を知らせてくれるが、それは今から1時間以上も前のことで。
気まぐれな子猫のような和行なら、1時間あれば十分ナンパもできる。
「あれ、絵野澤先生、これから飲みに行こうって話があるんですけど?」
と声をかけてくれる同僚に、
「悪いが急用! 今回はパスっ!」
と振り切って玄関に向かった ―― が、職員用の玄関を前にして立っているのは紛れもなく、
「お前な、心臓に悪い台詞を留守電に入れるなよな」
思いっきり溜息をついて呟けば、和行はニコッと微笑んで囁いた。
「ん〜? だって、俺のココロの叫びだもん」
そう言って、小悪魔のような笑顔が近づいてくる。
「留守電ってキライなんだよ。聞いてもらえるかどうか判んなくて。でもその慌てようじゃあ、聞いてくれたんだ?」
「当たり前だ。お前のメッセージならいつでも聞くさ」
「えへっv 嬉しいな。そんなこと言われたら、留守電が好きになりそうだね」
そう言って本当に嬉しそうに笑う和行を抱き寄せて、巧は心底切実に呟いた。



「頼むから。次はもうちょっと心臓に優しいメッセージにしてくれな」




Fin.


2004.04.18.

Silverry moon light