桜:01 しぼんだ風船 (幸洋×郁巳)


舞浜の駅で電車を降りれば、東京ディズニーランドはもう眼の前。
すでにチケットは購入済みだから長い行列の最後尾に着く必要はないとは言っても、自然と足早になるのは仕方がないと思う。
それなのに、幸洋ときたら…
「…おい、マジに行くのか?」
「ここまで来て、何言ってんの? 早く行こうよ!」
「だって、メチャ寒いぜ。俺はあっちで待っててやろうか?」
といって指差したのはイクスピアリ。
「絶対、ダメ!」
全く、往生際が悪いんだから!
幸洋は、学生時代からバイト三昧でその職種は両手の指にも余るほど。
それなのに、何故か学生アルバイトでも人気の1、2を争うディスニーランドには、客としても行ったことがないというから引っ張り出してきたというのに、滅茶苦茶寒がりだから、仕事でもなかったらこんな冬日に外に出かけるなんてコトは絶対に思わないらしい。
でもね、ボクはそんなことないから。
だって、デートだよ、デート!



ゲートをくぐれば、そこは日常からはかけ離れたおとぎの国。
ワールドバザールを抜けてアドベンチャーワールドにウエスタンランド。クリッターカントリーにファンタジーランド、トゥーンタウン、トゥモローランド…。
俺は高等部の一般入試、幸洋は月1回の定休日で休みだけど、世間的には平日だから幸いなことにそんなに込んではいなくって。
だから朝1番から夜のパレードまで眼一杯堪能して。
帰りにはシンデレラ城からワールドバザールへのウインドーショッピング。
その途中で、風船を売っているお姉さんがいて ―― あ、いいこと思いついた。
「幸洋、アレ買って♪」
「…お前、年いくつだ?」
「いーじゃん! 買って!」
と強請れば ―― 思いっきり溜息をつきつつ、財布を取り出してくれた。
「帰りの電車で顰蹙買うぞ?」
「そんなの、気にしないもん!」
「…俺が気にするんだがな」
ま、それは諦めてよね♪



買ってもらった風船は、ディズニーランドの定番キャラクター、ミッキーマウス。
「どうせ買うなら、もっと長持ちするヤツの方がよかったんじゃないか?」
「ううん、いいんだ、これで」
今はふわふわと宙に浮いているけど、風船だもの。いつかはしぼんでしまうのは判っている。
だからね、
「コレがしぼんでダメになったら、今度はディズニーシーに行こうね♪」
「…そういうことか」
ようやく俺の魂胆がわかったようで ―― でも幸洋が、どこか楽しそうに笑ったのを、俺はちゃ〜んと知ってるからね♪




Fin.


2004.03.15.

Silverry moon light