桜:02 一等賞 (潤一郎×渉)


今年の文化祭でも、ミスコンの1位は不動の本条先輩だった。
「これで…何年連続?」
「さぁ? 確か、初等部に入った年からだろ? ってことは…」
かれこれ20年? それってもう審査の対象外にすべきなんじゃないの? と思うのだが、
「一応さ、『在校生に限る』とか枠を絞ったこともあるんだけど、そうすると無効票が大半 ―― ってことになるからな」
そういって楽しそうに集計を続ける潤一郎に、渉は何となく面白くない。
別に、学園主催のミスコンで優勝したいなんて思ってはいない。
っていうか、どちらかといえば丁重にお断りしたいくらいだ。
そもそも、なんで男が「ミス」なんだよ?とも思うのだが ―― まぁ本条先輩なら納得はいく。
だが、それを ―― さも当然のように潤一郎まで言うのが、何となく気に障る。
「卒業式の写真の使いまわしなのにまだ欲しいヤツがいるなんて、本条先輩って永遠のアイドルって感じだよな」
そんなことまで言われては ―― どうせ俺は、と拗ねたくもなるものだ。



「でも今年は中々面白かったんだぜ?」
部屋中にばら撒かれた写真を選定しながら、潤一郎はクスクスと意地の悪い笑顔を浮かべている。
「ほら、草嶋なんかエントリーした写真がコレだろ? 結構、イイセンまでいったんだぜ」
去年に引き続き2位を確保している和行の写真は、はっきり言って煽りモード炸裂である。
体育の授業前らしく、着替えているところのショットなのだが ―― 鎖骨にはしっかりとキスマークが浮かんでいる上に、その視線はカメラ目線でチラリと舌まで見せている。
「あのさ、エロ本のグラビアじゃないんだから…」
普通、こんなの出したら職員会議モノだと思うんだけど?
「でも、本人がコレがいいって言ったんだぜ?」
「…和行に聞くからだろ? 絵野澤先生がよくキレなかったな」
「ネガは先生にやったからな。コレは貴重な1枚ってわけ」
写真だけの人気投票では流石に和行のものが1位を取っている。本来なら、そのプレミアをつけて高額取引となるところなのだが、今回はネガを恋人でもある絵野澤先生に取られてているから、そちらでの収入は見込めないらしい。
「唐沢の写真は五十嵐にネガごと買占められたし、新開のは永森に強奪されたしな」
はぁ〜と溜息をつく潤一郎に、渉の心境は複雑だった。
広報委員会の委員長である潤一郎はカメラの腕も一流である。それこそ週刊誌も顔負けのスクープから、コンクールにだしても十分賞を狙える芸術作品まで。
だが ――
(俺の写真は撮らないんだよな。ま、いいけど)
そんな風に落ち込みかけて ―― ふと、1冊のアルバムに気が付いた。
「あれ、こんなアルバムあったっけ?」
「ん? あ、馬鹿、それは見るな ―― っ!」
余りにも慌てて ―― つい持っていたレンズを落としそうになる。それで更に慌てたりしたため、アルバムは渉の手にしっかりと入っていた。
「なんだよ。見ても減るもんじゃないだろ?」
「減りはしないが…怒るなよ?」
そういわれて、何のことだと思いつつ開くと、そこには ――



「な、いいだろ? コレが俺的には今年の一等賞♪」
「…いつの間に撮ったんだよ…」
うつむいた渉の表情は見えなくても、呟く声が照れ隠しのように震えているのは明らかだ。
「それはヒ・ミ・ツ♪ こんなチャンスは滅多にないからな」



白いシーツの上で、まるで寝起きの子猫が伸びをするように裸の上半身を起こして眼を閉じて。
項に朱の花びらを散らして喉を晒す姿はキスを強請るのとよく似ていて。
「1等賞は間違いなしだけど、門外不出だぜ、コレは。他のヤツになんか見せられないからな」
尤も、本当の1等賞は写真なんかじゃなくて本人そのものだけど。
そう言って抱きしめられるt、満更悪い気はしない渉だった。




Fin.


2004.06.06.

Silverry moon light