桜:06 左利き (潤一郎×渉)


写真の片づけをしていたら、ふと気がついた。
「…あれ? お前、右利きだったっけ?」
「何、突然…?」
それまで、退屈そうに背後で転がっていた猫 ―― 渉は、むくっと起き上がると俺の手の中を覗き込んできた。そして、
「…いつの間にこんなの撮ったんだよ」
全く油断も隙もないとブツブツ文句を言いながらも、何となく照れくさそうな表情を見せるのが可愛いな。
俺の手の中には、卒業アルバム用にと教室で撮った何気ないワンショットが収まっていた。
勿論被写体は渉本人。退屈そうに授業を聞いているふりをしながら、シャーペンを右手で持って回している。
俺の知っている限りでは、左利きだったと思ったんだが…気のせいだったか ―― と。
すると、
「授業中だから、眠気防止にわざと右手で練習してた」
そう言って退屈そうにノビをすると、そのまま俺の背中にしなだれてきた。
どうやら俺が写真の片付けばかりをしていたものだから、猫は飽きて遊んで欲しいみたいだ。
「まぁ正確に言えば、元は左利きだけど、今は両利きってところ? 別に右でも左でも普通に使えるんだけどね」
それでも、多少は右の方が気を使うらしい。なので、授業中の眠気防止には右手を使うのが一番なんだとか。
その代り、ここぞというときはやはり左が出る。
例えば ―― そう、一番コイツが活き活きしてる姿と言えば、気に入らない相手に左のストレートを叩き込むときの楽しそうな表情だ。
ホント、天性のケンカ性だからさ、この困った子猫は。
そんなことを考えていたら、
「でも、よく気がついたな」
俺の背中にもたれかかった渉は、小さな声でそんなことを呟いていた。


「そりゃあ、いつでも見てますからねぇ」
危なっかしくて ―― とは言わなかったが、その一言で渉が息を呑んだのが、背中越しでもバレバレだぜ?




Fin.


2008.08.15.

Silverry moon light