向日葵:01 赤い金魚 (尚樹×祐介)


とあるデパートの屋上に、ペットショップが開店したと聞いて覗いていた。



天上まで届きそうな棚には、綺麗に並べられた水槽があって。
その中には色とりどりの魚達がゆったりと泳いでいた。
「あ、これ、綺麗ですね。でも、泳ぎにくそう…?」
祐介が目を留めたのは、まるで漂うように泳ぐ見事な尾ひれを持つ金魚。
朱色が美しく、ふわりとゆらぐ尾ひれが、まるで天女の羽衣のようにたなびいていた。
「手の込んだガラス細工みたい。綺麗だけど、僕には恐くて飼えないな」
「なんだ? 金魚が欲しいのか?」
そんな話は聞いていなかったので、何気に尚樹が尋ねたが、
「あ、そんな意味じゃないですよ。ただ、こんなに精巧な金魚だと、飼うのも大変そうだな、って思ったから…」
まめな人じゃないと、世話とか大変そうですねと付け加えられて、尚樹は確かにと頷いた。
「そもそも金魚って言うのは…元はフナだからな。それを人間が改良して作り上げた芸術品だ。生半可なことじゃ、すぐに死んでしまうな」
手が加えられた分だけ、自然に反するから生命力は弱くなる ―― と言われると、なんだか哀れにさえ思えてしまった。



「やっぱり、僕は和金がいいかな?」
そう言って楽しそうに見つめる先には、よく金魚すくいなどで見かける和金が群れを成していた。
小さな水槽に押し込められて、でもどの金魚も他の魚とはぶつかることもなく泳いでいる。
朱色の大群は、入り乱れるように泳いでいるかと思えば、時折見事なまでに同じ方向に泳いだりしていて、見ていて飽きない。
「…気に入ったのなら、買ってやろうか?」
あまりに夢中になっている祐介に、尚樹はついそんなことを言うが、
「いいです。ちゃんと世話する自信がないから。死んじゃったら可哀想だし」
そういうと、ニッコリと微笑んだ祐介は、尚樹の手を取って歩き出した。



「金魚か…」
人間の手によって造られた、「生きた芸術品」。
その精巧さゆえに、ちょっとした管理不足がすぐに「死」に繋がる危うい「命」。
小さな水槽に閉じ込めて、自分の好みの色に染め上げて、好きなように改良していくと言うのは ――
あるイミ興味のもてるところ。
しかし、
(だが、そんな「作り物」よりも、自然の方が可愛いな)
流石に一日歩き回って疲れたのか、帰りの電車で祐介は尚樹の肩にもたれてうとうとと眠りに引きずり込まれていた。
そんなあどけない寝顔を見ながら、それだけは間違いないと尚樹は確信していた。




Fin.


2004.04.12.

Atelier Black-White