向日葵:02 油性マジック (尚樹×祐介)


「どうしたんだ、これ?」
始業式が終わってそのまま尚樹先輩のマンションにお邪魔した僕は、ふと手を取られて赤面した。
尚樹先輩に比べたら格段に小さな手には、今更隠しても仕方がないけど黒いインクが染み込んでいて、洗い落とそうとした手の甲は擦れて赤くなっていた。
「今日、新しい教科書を買ったから、名前を書こうとして…」
「…なんで右手の甲にまで?」
「それは…郁巳が…」
と言いかけると、尚樹先輩は思いっきり不満そうな顔をした。
「アイツと同じクラスなのか?」
「うん」
もちろん、他にも1年のときと同じクラスメイトはいるけれど。でもやっぱり一番の親友である郁巳と同じクラスでよかったと思っている。
ただ、尚樹先輩は複雑な心境のようだけど。
「…あんまりアイツに遊ばれるなよ?」
「あ、遊ばれるって…僕、オモチャじゃないですよ」
「でも、何か書かれたんだろ?」
といわれて ―― かかれた内容を思い出して、自分でも自覚できるくらいに頬が熱くなった。
「祐介?」
そんな僕の様子に、気が付かない尚樹先輩じゃないから ――
覗き込むように問い詰められると、観念するしかないよね。
「ちょっと…郁巳にいたずら書きされただけですよ」
「フン…なんて?」
「…」
「言わないと、言いたくなるようにしてやろうか?」
そんなことをいう尚樹先輩は、はっきり言ってイジワルだ。
―― 尤も、僕が尚樹先輩に適うはずもないんだけどね。
「…売約済みって」
「…」
子供っぽいって呆れたかな?と思ったら、尚樹先輩は仕方がないなという感じで苦笑した。
「…郁巳にしては殊勝なことをするな」
「殊勝なことって?」
…なんか、すっごくいやな予感がしてきたけど。
「で、祐介はそれを消したのか?」
「当然ですっ!」
手の平ならまだ隠しようもあるけど、甲なんて皆に見えちゃうから。子供じゃあるまいし、そんな恥かしいことはできないよ。
それなのに ―― 僕がそういうと尚樹先輩は、
「残念だな。悪い虫避けには良かったと思うのに」
「先輩っ!」



流石に大学と高校では今までのように学校で一緒にとは行かないから。
祐介に悪い虫が付くのではと心配でならない尚樹である。
「ま、いいか。マジックなんかじゃなくて別の方法でも俺のモノっていう印は幾らでもつけられるしな」
そんな怪しい台詞を呟くと、尚樹は祐介の項にチュッ♪と唇を落とした。




Fin.


2004.05.23.

Atelier Black-White