◆◆ チョコレートなしのバレンタイン ◆◆



   「はぁ〜・・・・・・」

   海崎は無意識にため息を吐いていた。
   全く、想定外もいいとこだと、自宅の部屋に今もあるだろう“物体”を思い浮かべる。

   昨日は2月14日。
   俗に言うバレンタインデーだった。

   高校生の恋人を持つ海崎は、14日当日には会って食事をするだけに留め
   今日学校が終わり次第、攫って週末を一緒に過ごすことにしている。

   だから昨日も永遠を迎えに行き、今日も行くつもりなのだが―――。

   昨日、永遠は両手にたくさんの荷物を持って海崎の前に現れた。
   聞けばクラスメイトや上級生の女の子たちからもらったチョコレートだと言う。

   そう、永遠は海崎の想像を遥かに超えた個数をもらっていたのだ。

   少し前までは弟みたいだと同級生たちからも思われていた永遠だが
   最近すらりと身長が伸び始め、優しく穏やかな性格はそのままに
   整った甘い顔立ちはモテる要素・・・チョコレートを貰う要素を十分に兼ね揃えていた。

   永遠がモテるのが悪いわけじゃない。
   精々10個かそのくらいなら海崎も許容できる。
   だが、永遠の手にしていたチョコレートはそんな個数を遥かに超えていたのだ。

   しかも、永遠は学校以外でもチョコレートを貰う。
   そう、父母の経営する店でも永遠に、と従業員は元より客からも。

   これは男として永遠に個数で負けて悔しいのか、永遠がモテることに危機感を覚えているのか
   海崎にもわからない。


   「お待たせ」

   金曜の放課後、学校近くで待っていた海崎の車へ永遠がそう言って乗り込んで来る。
   雪が降りそうな気温ということもあり、永遠の鼻や耳は真っ赤で
   早く暖めてやらなければと思う。

   「今日は泊まるんだろ?」

   「うん。一緒にすごせるよ」

   分かり切っている答えを改めて聞きたくて、そして聞いてから
   海崎は約1週間ぶりに滑らかで甘い永遠の肌を存分に味わえるとほくそ笑んだ。

   ♪〜♪〜♪〜

   そこへ、永遠の携帯の音が鳴る。

   「!おじいちゃん、久しぶりだね」

   それだけで相手が誰か判ってしまう。
   永遠の祖父で、今も海崎は目の敵にされている相手だ。

   「ん?皓弘さん?一緒だけど、今運転中だから・・・・・・ちょっと待ってね」

   どうやら相手は海崎に用があったらしい。

   車を路肩に止め、電話を受け取ると、人を小ばかにしたようなじじいの声が聞こえて来た。

   『永遠くんからチョコレートはもらえたかのう?』

   「別に、甘いものは好きではないので」

   『貰えなかった言い訳じゃな。・・・それなら二階堂のとこの咲綺ちゃんからはどうじゃ?毎年手作りを送ってくれてなぁ』

   「もらうのであれは永遠からのだけで十分ですから」

   『負け惜しみが聞こえるのう・・・・・・永遠くんより貰うチョコの数が少ない男の』

   その台詞にムカっ〜!!と来た海崎だが
   永遠の前で文句を言うわけにもいかず、耐えるしかない。

   『永遠の生物学上の父親という男も数だけは多いようだし・・・まさか、モテないのかのう・・・可哀相に』

   そして結局何が言いたいのかわからぬまま、電話は勝手に切れた。
   実際はその振りをして、海崎が切ったのだが。
   別に年寄りの戯言に付き合わなくてもいいだろう。
   それより永遠とすごす時間が大事だ。

   「おじいちゃん、何だって?」

   「よくわからないな・・・痴呆には早いと思うが」

   「ええっ?困るよ、おじいちゃんには元気でいてもらわなきゃ」

   「・・・そうだな」

   そして他愛ない話をしながら海崎のマンションへ着き、永遠は
   手伝って、と海崎の前にチョコレートを並べた。

   「どうするんだ?これ」

   「カードとか、送り主さんのわかるものはここ。チョコレートはこっちに分けて」

   何で自分が、と思わなくもなかったが、永遠の説明を聞いて
   そんな気持ちは吹き飛んだ。

   「ごめんね、これ、早く持って行ってあげなきゃいけないから」

   「どこに?」

   「施設にね、寄付してるの。父さんと母さんがやってることなんだけど」

   くれた女の子たちには申し訳ないが、それはホワイトデーにお礼をすることにして
   チョコレートは毎年寄付しているのだということを。

   「・・・・・・そうか」

   いくつ永遠が貰ったか、なんて小さいことを気にしていた自分が馬鹿らしくなって
   ちまちました作業が苦手な海崎にしては真面目に手伝ったのだった。



   一緒に夕食を食べ、食後に永遠のピアノを聞きながら
   あと1年半・・・・・・永遠が高校を卒業すればこういう風に一緒に暮らせるだろうかと
   ふと考える。

   逃がすつもりはない。
   それが永遠の為になろうとなるまいと、手離すつもりは更々ないのだ。


   「僕からチョコがなくて、おじいちゃんに何か言われた?」

   湯船で温まり、仲良く早めにベッドルームへ。
   身長が伸びても海崎の腕の中にすっぽりと入る愛しい存在は
   薄い暗闇の中でも眩しい。

   「別に、言わせておけばいいさ」

   「だって今年は自分だけで買いに行こうと思ったんだけど
   女の人たちですごくてね」

   そう言えば去年は同級生たちとチョコレートを買いに行った姿を目撃して
   見当違いの嫉妬をしたことを思い出す。

   「いいさ、こうして永遠がここにいてくれるだけで」

   そうして永遠をゆっくりと押し倒して行く。
   柔らかな甘い身体を味わう為に。
   そして何より、己という存在を刻む為に。


   唇だけでなく、頬にも、首筋にもキスを落として
   そして今は淡い胸の突起を舐めては吸い、永遠から嬌声を引き出す。

   「んっ、・・・っん、・・・ゃ、あ・・・っ、・・・っ」

   右と左、舌と指でそこが色付き、ぷっくりと主張するまで愛でると
   身体をずらして、海崎を受け入れてくれる場所へと移動する。

   永遠の身体に似合う分身は手で扱いてやりながら
   秘部を唾液で濡らし、ゆっくりと指を含ませてやると
   快感を覚えているからかきゅう、っと締め付ける。

   「もう欲しいって、永遠の中が言ってるぞ・・・?」

   「・・・・・・あっ、・・・ん、・・・っ、・・・・・・、ぁ・・・っ・・・」

   違うとも言えず、だが恥ずかしくて、永遠は頭を左右に振る。
   感じている顔を、海崎にぎゅっとしがみつくことで、隠しながら。

   「・・・いいか?永遠・・・」

   耳元へそう囁くと、うん、という小さな声とともに
   永遠が僅かに足を開く。
   それが海崎をどんなに喜ばせるか、永遠は知らない。
   永遠も海崎を欲してくれているのだと。

   ゆっくりと自身を永遠へ挿入する。
   一度奥まで腰を進め、ちゅっ、ちゅっ、と永遠の顔中にキスを落とす。
   もちろん、唇にもだ。

   「永遠・・・舌を出して・・・?」

   耳元で、殊更低い声で告げると、永遠の内部が蠢く。
   海崎の言葉にも、海崎自身にも感じている証拠だった。

   言われるがままにほんの少し舌を出した永遠に
   深い口付けを。
   そしてそのまま、腰を動かし始める。

   永遠の甘い声は海崎に奪われ、身体は揺さぶられ、奥から言葉に出来ない快感を引き出される。

   「・・・・・・永遠・・・俺の永遠・・・・・・っ」

   また海崎も、自分が一から教え込んだ自分にぴったりの身体が心地よく
   気を抜くと達してしまいそうになるのを耐える。

   「・・・皓弘さ・・・んっ・・・・・・・・・っ、すき・・・っ。・・・だいすきっ」

   だがそれも、こんな可愛い告白の前では脆く崩れそうになる。

   「・・・・・・・・・永遠・・・っ・・・!」

   律動を早め、ふたりで精を吐き出した時、どちらも薄っすらと汗を掻いていた。
   呼吸を整えるより先に、腕の中へ永遠を閉じ込める。

   「永遠・・・愛してる・・・・・・俺の永遠・・・・・・」

   そう呟きながら永遠の髪を梳く。
   この時間こそが、快感よりも勝る、幸福というものを感じられる一時だ。

   「・・・・・・皓弘さん・・・」

   「・・・どうした?」

   「・・・・・・ううん、何にも。・・・・・・もっとぎゅ、ってして・・・?」

   リクエスト通りにぎゅっと抱きしめて、腕の中からそっと顔を出した永遠へ
   繰り返しキスをして、再び熱を持ち始めるのは時間の問題だった。


   END


   Message Dear Asagi
                サイト10周年、おめでとうございます♪
                バレンタインデーのその後というお話だったんですが、ただの甘い話になっちゃいました(苦笑)
                これからも素敵なお話が15年・20年・・・と続いて行きますように。
                楽しみにしています。
                                                             From Satsuki 2013.2


サイト開設10周年記念に、「wish」の皐月様から頂きました。

季節柄ということで、バレンタインデー
でもちょっとひねって、当日ではなく、その後というリクをしてみました。
チョコよりも甘々なお話をありがとうございましたv



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「wish」 皐月様


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