◆◆ Digression ◆◆



   それはどの会社も忙しい年度末。
   皇 櫂斗はひとりで蒼神会を訪れていた。

   蒼神会の金の動きの一部を扱っている櫂斗がその報告に来たのだ。

   「これが証書だ」

   櫂斗が蒼神会3代目・藤代龍也に証書を渡す。
   これが一般的な通帳・印鑑に当たり、額面が記入されている。
   だがこれがなければ金を動かせないというわけではなく
   あくまでも櫂斗がその額を預かっているという証明だ。

   「ああ。ところで紹介してやったあの店には行ったか?」

   ふたりの間に堅苦しいものは存在しない。
   仕事での付き合いが始まりだが、今では仕事以外の話もする。

   それは、少し前にお互いの恋人が男だと知ったからかもしれない。
   以来、遠慮などという壁はなく、かなり踏み込んだ会話をも展開している。

   「もちろん、芙蓉を連れて行ったさ。幾つか玩具を選んでやって
   可愛がってやったに決まってるだろ」

   櫂斗が自慢気に告げると、龍也はふん!と悪戯な笑みを浮かべ余裕を見せつつ
   対抗して恋人・克己のことを口にした。

   「だがウチの克己には及ばないだろう。
   何しろ天使が極上の身体を持ってるようなもんだからなぁ」

   そうすると、恋人・芙蓉のことを及ばないと言われた櫂斗は
   カチン!と来てまた言葉を返す。

   「それはこっちの台詞だ。3人を相手に出来る芙蓉に敵うわけないだろ」

   「恋人を独占出来てないからって俺に当たるな」

   「お前こそ俺の芙蓉が美人で聡明だからって僻むな」

   「美人で聡明なのは克己だ」

   収拾がつかないほどヒートアップした言い合いは
   第2ラウンドへと縺れ込むことになる。

   「それならお前の自慢の恋人とやらを見せてもらおうじゃないか」

   と、それぞれ話は聞いていても会ったことがない恋人を
   見せ合うことになった。


   ――――――――――――――――――――――――――――


   櫂斗は芙蓉という恋人の他に、同じ立場の亮介、響一朗とともに
   4人で暮らしている。
   3人の中のひとりなんて選べないという芙蓉に
   それなら3人を受け入れればいいと言ったのは櫂斗だった。

   以来4人で暮らせる家を建て、その関係はなんとか上手く行っている。


   「芙蓉の方が美人で賢いに決まってる」

   夜、芙蓉と過ごすのは3人一緒だったり、ひとりだったりする。
   今夜は櫂斗が独占する日だった。

   「・・・櫂斗?・・・どうかしたんですか?」

   ベッドの上で芙蓉の顔を見ながら櫂斗がそう呟くと
   芙蓉は微笑みながら尋ねる。

   すると櫂斗は今日あったことを話しつつ、芙蓉を高めて行く。

   「・・・・・・ん・・・っ、・・・櫂斗、人には好みというものがありますから。
   自分の恋人が一番と思いたいものなんですよ・・・?」

   櫂斗にしては柔らかで撫でるような愛撫を受けて
   芙蓉は客観的な意見を述べる。
   誰が美人で賢いか、なんて見る人が変われば変わるものだと。

   「それでも・・・芙蓉が一番だ」

   「櫂斗がそう思ってくださるだけで・・・私は嬉しいです」

   感謝の気持ちにと程よく筋肉のついた胸の上・・・鎖骨あたりに
   ちゅっ、とキスをする。
   そうして微笑みを櫂斗に向けると、温かな唇が降って来た。



   後日、櫂斗は芙蓉を連れて再び蒼神会のあるビルへとやって来た。
   ちなみにアレコレ煩いだろうからとふたりで出掛けることは
   亮介や響一朗には内緒だったりする。

   「芙蓉だ。・・・芙蓉、こっちはヤクザの藤代龍也にその恋人サン」

   櫂斗はそう紹介すると、それに対抗してか龍也も口を開いた。

   「俺の恋人の克己だ。克己、そこにいるのは悪徳金融の皇櫂斗と恋人」

   すると早速この間の続きが始まろうとする中、克己と芙蓉は
   それぞれに自己紹介をする。

   「本条克己です。外科医をしてます。よろしくね?」

   「円城寺芙蓉と申します。こちらこそ、よろしくお願い致します」

   お互いに微笑み合うと、心の中で目の前の相手の感想を呟いた。

   うわぁ〜日本人形みたいな和風の美人さんだ。

   お姉さんたちでも敵わないくらい、綺麗な方・・・。

   「なぁ、芙蓉。俺ひとりでも充分満足させてやってるよな?」

   「フン、そんなことは当然に決まってるだろ」

   隣から答えを求める問いかけをされ、克己も芙蓉も頬を染める。
   だが龍也や櫂斗は気にすることなく・・・寧ろエスカレートして行くのだ。

   「感度はいいし、俺が1から仕込んだ身体だからな」

   「俺だって何もかも仕込んでやったよなぁ?芙蓉」

   情事を連想させることばかりを口にするふたりに、先に制止を掛けたのは
   芙蓉だった。

   「櫂斗、どうして人様にそういうはしたないことをお話出来るのですか?」

   涙目になりながらも芙蓉は怒っているようだ。
   あまり芙蓉はそんな様子を見せることがない為、櫂斗は珍しく慌てる。

   そして龍也と克己は・・・・・・。

   はしたないって・・・おい、男でしかも今の世の中にそんな言葉を使うヤツなんているか?

   芙蓉さんってスゴイ。僕が龍也に止めてって言っても聞いてくれるか判らないのに・・・。
   でも確かにそういうことを話されるのってちょっとイヤだよね・・・。

   「櫂斗がお仕事で仲良くなった方と会わせてくださると、そう仰るから楽しみにしていました。
   ・・・それなのに・・・・・・っ」

   「芙蓉っ、泣くなよ?な?芙蓉が嫌ならもう言わないから」

   ご機嫌取りに走る櫂斗を龍也は冷ややかな眼で見ていたが
   驚くことが待っていた。
   芙蓉の涙を櫂斗が拭ってやった後、芙蓉が強請っているのが聞こえたのだ。

   「後でたくさん・・・キスして・・・?」

   「ああ、何回でもしてやるからな」

   キスして、などと克己が上目遣いで強請ってくれたことがあっただろうか?
   自分以外の2人と恋人を共有だなんて龍也には考えられないが
   今の一瞬だけは櫂斗を少し羨ましく思ってしまった。

   「ごめんなさい、克己さん、龍也さん。お見苦しいところをお見せしてしまって・・・・・・」

   落ち着いた芙蓉がそう謝ると、克己はううんと言って
   芙蓉が安心するように笑みを浮かべた。

   ちなみに芙蓉の一言で龍也と櫂斗の対抗意識は削がれたようだ。


   「3人・・・?!・・・その、大丈夫なの?」

   次第に打ち解けて行くと、芙蓉は自分の恋人が櫂斗を含め3人いることを明かした。
   少しは好奇な目を向けられてしまうかも・・・と思ったが
   克己は自分のことを真っ先に心配してくれて、芙蓉は涙が出る程嬉しかった。

   「はい。櫂斗も亮介も響も、いつも私のことを考えてくださって・・・。
   でも私はどうしてもひとりを選べなかったから・・・・・・」

   「芙蓉、俺たちがそれでいいと言ったんだ。
   それともお前は後悔してるのか?」

   「いいえ!後悔なんか・・・ちっともしていません。4人で暮らせて本当に幸せですから」

   芙蓉がそう微笑むと櫂斗も満足そうに頷く。

   そうして克己と芙蓉を中心としたのんびりな会話が展開され
   時間はあっという間に過ぎて行った。


   ――――――――――――――――――――――――――――


   「龍也、今日はありがと」

   夜、克己はベッドの中で龍也に告げた。
   芙蓉という新しい友人が出来た礼を。

   「ああ・・・。何なら礼は身体で示してくれてもいいぞ?」

   龍也が冗談のように返すと、克己も今日のことを思い出した。

   「そんなはしたないこと、僕には出来ないよ?」

   芙蓉の言葉を借りて口にしてみたが、何だかおかしくて笑ってしまう。
   すると龍也がゆっくり押し倒して来た。

   「出来るさ。お前から強請らせてやる」

   ぞくりと身体を駆け巡るような声で囁かれ、克己はちょっと墓穴を掘っちゃった?
   なんて考えてしまうがもう遅い。
   龍也はすっかりその気で、制止しようとするが聞いてくれなかった。


   「・・・あ、・・・も・・・っ・・・龍也ぁ・・・・・・っ!」

   たっぷりと敏感な部分を順番に刺激され、蜜を零しつつあるモノも
   もう少しで達せる―――というところまで来ていたのにその欲を塞き止められる。

   「もっと泣けよ、克己・・・。俺を欲しがってな」

   そうして蕩けた蕾には龍也の指があり、克己のいいところを避けては
   それでもじわじわと追い詰めるようにして行く。

   「ひぁ・・・っ、・・・・・・おねがっ・・・龍・・・や・・・っ・・・」

   焦らす、という言葉がぴったりな程に焦らし、満足するまで強請らせた後
   龍也は漸く克己を熱い楔で貫いたのだった。

   「・・・・・・あぁぁーーー・・・っ!!・・・は、・・・っ、ん・・・・・・」

   「いいぞ、克己・・・・・・。・・・・・・っ・・・」

   待たされた分だけ飢えていたらしい克己の内部は
   龍也のモノを強く締め付ける。

   だが同時に達する前に、焦らした分克己を快感に泣かせたいと
   龍也が激しく攻め立てた。

   遂にふたりで極める瞬間を迎えた後、克己は僅かな間
   意識を飛ばしていたようだ。


   「・・・龍也、僕は何人に好きって言われても龍也だけを選ぶからね」

   芙蓉のような関係もあるのだと否定はしないけれど、と克己は告げる。

   「ああ、俺も・・・誰かと克己を共有することは有り得ない。
   克己も、克己の愛も全部俺のものだ」

   「うん・・・・・・」

   実は繋がったままだったりするふたりは、そのまま深い口付け
   そして第2、第3ラウンドへ・・・と向かうことになるだろう。


   ちなみに芙蓉とふたりで出掛けたことが亮介と響一朗にバレた櫂斗は
   ふたりから責められて辟易していた。
   亮介や響一朗が自分たちも芙蓉とそれぞれデートすると宣言し
   それなら邪魔でもしてやろうかと考えている櫂斗だったりする。

   3人がああだこうだと言い合っている最中、芙蓉は
   “また今度お喋りしようね”と言ってくれた克己の言葉を思い出し
   微笑んでいた。


   End



     Message
     サイト4周年、おめでとうございます♪
     お祝いにこの作品を贈らせていただきます。
     何だかついこの間3周年だった気もするのですが(笑)
     これからも5周年、10周年・・・!と続いて行きます様にvv
     2007.2            皐月


サイト開設4周年記念に、「wish」の皐月様から頂きました。

今回は、浅葱のお気に入りでもある櫂斗と龍也のバトル!
「仕事で逢ったのに、何故かお互いの恋人の話に〜」と
お願いしたら…こんなにステキなお話を頂きましたv

皐月様、いつもありがとうございます!


皐月様へのサイトへは↓

「wish」 皐月様


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背景は↑からお借りしています