◆◆ On Tha Wind ◆◆

番外編
(龍也&克己)



梅雨空の昼下がりともなれば都内の道路は当然のように渋滞である。おかげで運転する良介は、後部座席に膝を組んで座っている龍也の機嫌が、100Mも走らないうちから氷点下に下がっていることにビクビクとしていた。
「こんな調子では、目的地に着く前に日が暮れるぞ」
「あはは…そーですね。でもほら、渋滞してますから、しょーがないですよ」
当然乗っているリムジンは、防弾仕様な上にスモークも貼ってある。だが車内から外は見えるのだから龍也にもこの渋滞は判っているはずなのだが ――
「邪魔な車は体当たりでもしてどかせろ」
「兄貴ぃ〜、そりゃ無理ですって」
「煩いことを言うようなら、札束でも握らせればいいだろう?」
いや、その前にそんなことしたらパトカーが来ますって。
そう言いたいところだが、何せコトが克己に関わることであれば警察にだって手を回しかねない。
「えっ〜と、ほら、そんなことをして怪我人とか出たら、克己先生の仕事が増えるかもしれませんよ」
「五十嵐病院に入院などさせるか。その辺の救急に行かせるに決まってるだろ」
っていうか、絶対にどこか山奥の見知らぬ診療所行きだなと確信するのは、実例があるからで。
「ヤバイっすよ。やっぱ、一般人を巻き込むのは…」
「貴様も煩いことを言うと、黙らせるぞ?」
カチャリと撃鉄の音がしたのは ―― 空耳ではないらしい。
「黙って運転しろ」
「…はい、黙ります」
龍也に銃を突きつけられるのは結構良くあるのだが ―― こんなこと馴れたくない!と思いつつ、引きつった笑顔で前を向き、ただ渋滞が切れるのを切に願う良介である。
(克己センセー、恨みますよ…)
克己が黙って病院を抜け出し、男友達とサーキットに来ているという連絡が入ったのは30分前のこと。
丁度その時本部にいた龍也はすぐさま先日のピロートークを思い出し、その男友達というのがつい最近仲良くなった皇紀や咲綺のことだと気が付いたが ―― だからといって平静でなどいられるわけもない。
(勝手に行くなといったのに。克己のヤツ…)
そして、
「でも、兄貴。やっぱこの渋滞なら、車よりバイクの方が早いですよ?」
そう良介が何気に言えば ――
「そうだな。よし、次の交差点で止めろ」
そう言って、龍也は車を降りた。



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「…俺に断りもなく男と逃避行とはいい度胸だな?」
そんな地を這うような低い声が背後からかけられ、克己は驚いて振り向いた。
「あ…れ、龍也? どうしてここに?」
「お前のオトモダチから連絡を貰った。『克己が来ているが、ちゃんと外出許可は出てるのか』ってな」
「外出許可? もう、晃司ってば、僕はコドモじゃないんだからねっ!」
さっと頬を薄桃に染めて怒る克己だが、晃司としてはあとで克己の保護者に 睨まれるよりは遥かにマシというもので、
「お前がちゃんと伝えとけば問題ないだろ?」
「だって! レースしたいとか言ったら、危ないからダメだって言うんだもんっ!」
「…だからって、黙って来たって絶対ばれるだろうが?」
子供のように拗ねる克己と、その克己の背後に立って思い切り牽制しまくる龍也には頭が痛くなる晃司である。
「とにかく、保護者が迎えに来てくれてるんだ。ヘリは俺が返却しといてやるから、一緒に帰りな」
晃司にそう言ってもらえれば ―― 流石に黙って出てきたのは拙かったと自覚があるのか、克己もそれ以上は駄々をこねないで。
「…判った。じゃ、頼むね」
と心持ち照れたように呟くと、駆け寄りたい気分を抑えて龍也の側に立った。
「…龍也、怒ってる?」
「フン、自覚はあるんだな、克己?」
そう言ってクイッと顎を掴むと、他人眼も気にせず唇を奪った。
それも、かなり濃厚なヤツで。
お陰でそこにいた晃司のチームメートやスタッフも目が点になる。
「ちょ、ちょっと! 龍也っ!」
流石にそれには克己も慌てるが ―― 一気に朱に染まった頬が満更でないことは誰に眼にも明白だ。
「続きはどうする? ここでも俺は構わんが…?」
「た、龍也のイジワルっ! 絶対ここでなんて、イヤっ!」
「じゃあ俺の言うことを聞くんだな?」
「 ―― っ!!」
口惜しそうに睨んでも、ほんのりと頬を薄桃に染めている状態では迫力などあるわけもなく、
「…ったく、イチャツクならヨソでやってくれよな」
一気に疲労感に襲われた晃司は、あとは知らんと言うようにピットに戻っていった。





皇紀や咲綺もそれぞれのパートナーが迎えに来ていたのでサーキットで別れて、克己が連れてこられたのは駐車場の一画だった。
そこには、いつものリムジンや龍也の個人もちであるアルファ156ではなく、一台のバイクが置いてあった。
「え? どうしたの、このバイク?」
「都内は渋滞だったんでな。途中で買ってきた」
「買ってきたって…これ、BMW新型でしょ? 300万近くするヤツじゃない?」
「そうだな」
実際は、諸手続きも押し付けてその場で乗ってきたので、500万のキャッシュを置いてきたのだが ―― それは別に言わないで。
「そうだなって…もう、衝動買いも程々にしなよ?」
「…お前には言われたくないな」
車に関しては克己も言える義理はないのだが、そこはそれで。
「いいから乗れ。ちゃんとタンデム(二人乗り)仕様だぞ」
「…もう! ///」
ちょっと怒ったように口を尖らせながらも、龍也の背中にピッタリと寄り添って腰に手を回す。
「ちゃんと掴まってろよ?」
「…うん」
そうして走り出せば ―― 少し湿度のある風でもやはり気持ちが良くて。
克己は嬉しそうに抱きついていた。





しかし ――
そうして向かった先は、2人が住んでいる蒼神会の本部ビルではなく、先日買ったという軽井沢の別荘だった。
「ちょっ…と、龍也、待って!」
別荘に着くなり抱き上げられて、そのまま寝室に放り込まれてしまえば ―― 克己に逃げる術はない。
「ね、シャワーしたい! やだっ、このままなんて!」
「煩いぞ。シャワーならあとで俺が洗ってやる。その前にお仕置きだろ?」
そう言って押さえ込んで口付けをすれば、克己に抵抗する力などあるはずもない。
「でもっ…やだ、汗かいてるし…オイルとか、匂うでしょ?」
「いや? お前はいつもキレイだし。そんなに気になるなら、俺がキレイにしてやるよ」
そういうや否や、あっさりとツナギを脱がせて下着も奪うと、龍也は克己を四つ這いにさせて双丘を押し広げた。
「え? あ、や、やだっ! そんなっ」
いきなりの羞恥に身悶えて、克己は悲鳴にも近い拒絶を示すが ―― そんなことに構う龍也ではない。
「動くなよ? ちゃんと解さないとあとが辛いぞ?」
そう息を吹きかけるように呟くと、たっぷりと唾液を含めて克己の後腔に舌を這わせる。
「いやぁっ!」
シーツに顔を埋めるようにして堪えたところで、慣らされた身体が反応しないはずもない。
「や、やだっ…龍也、」
「俺以外のヤツを乗せるなと言ったよな? 言うことを聞かなかった罰だな」
そういうと上着のポケットからピルケースを取り出し、克己の目の前に翳した。
「上の口から飲むのと、下の口に入れられるのと。好きな方を選ばせてやる」
「え? な…に、それ」
「お前が言うことを聞くクスリだ」
恐らくは催淫剤の類ということは克己でも判る。だが判ったところでどうしようもないのも事実で、
「えっと…どっちも嫌って言うのは…」
「それは不可。選べないなら俺が決めるぞ?」
そう言って双丘を押し広げられれば、
「やっ! やだっ! そんな…ちゃんと自分で飲むからっ!」
咄嗟に直腸内吸収よりは経口吸収のほうが血中濃度のCmaxやTmaxがどうのと、薬物動態学を思い出したわけではなく。
ただ羞恥からだけそう云えば、龍也は満足そうに微笑んだ。
「じゃあ、飲んでもらおうか?」
「…判ったよ」
ニヤリと意地悪く笑いながらクスリと水を渡せば、渋々克己はそれを含んだ。
催淫剤とはいっても、見かけは無味無臭の白い錠剤だ。だが、既に火をつけられつつあるところにそんなものを自覚して飲めば ―― 効果が出るのは待つまでもないことだった。
「あっ…はぁっ…龍也…」
「ほう? 流石に効き目は早いな」
カクカクと震え始めた身体が薄桃に染まり、触れてもいないのに朱鷺色の飾りがプッツリと立ち上がってくる。赤い唇からは熱い吐息が洩れ始め、克己自身も硬く屹立し始めて先端からは厭らしく透明な蜜を垂らし始めた。
「まだ弄ってもいないのにこのザマか? 随分と淫乱な身体だな」
「やっ…言わないで…」
シーツを掴んで体の熱を耐え様としても、そんなことができるわけもないことは判りきっている。だから縋るように龍也を見上げて、
「ね、龍也…もう…」
そう言って見上げれば ―― しかし龍也は憎らしいほどに素っ気無い顔でベッドに横たわった。
「俺に言わずに出かけた罰だな。俺をその気にさせるか…それとも一人でイってみるか?」
「そん…な…やだ、龍也ぁ…」
恨めしそうに見上げたところで、実際に龍也の方はシャツのボタンにも手をかけていない。
だから仕方がなく克己はその服を脱がせにかかったが、
「ほう、俺をその気にさせる方を取ったか? じゃあそのまま俺の上に跨って脱がせてくれよ?」
「え? あ…きゃあっ!」
グイっと引っ張って身体に乗り上げさせれば、克己の屹立したものが龍也の目の前に晒される格好になる。その羞恥に震える克己は、咄嗟に手で隠そうとするが、
「なんだ? それとも自分で弄くるつもりか?」
そう揶揄されては、手で隠すことなんてできはしない。
「くっ…イジワル…」
「いいのか、そんなことを言って? だったらお言葉どおり、イジワルしてやろうな」
というや否や、克己の後腔に深々と楔を埋め込んだ。
「ひっ…いやぁっ!」
「おっと、勝手にイくんじゃないぞ」
幾ら慣らされた身体とは言っても、ロクに解しもせずにつきたてればそれは痛みも伴うわけで。
その強烈すぎる刺激だけで達しそうになる克己の雄茎を根元で押さえると、もう片方の手で克己の手を誘導して克己の雄茎を握らせた。
「いいな、俺をイかせるまでイくなよ。ちゃんと自分で抑えとけ」
「え? そんな、やだっ、龍也っ!」
「ん? どうした? お前が動かないと、ずっとこのままだぞ?」
「 ―― !」
後ろには龍也のモノを深々と咥えて、前では自分のモノを握らされて。
克己の羞恥はもはや限界であるが ―― その上にクスリの効果まであれば、もはや逆らうことなどできはしない。
まるで自分で慰めるように前を押さえたままの姿で啜り泣きながら腰を振る克己の姿に、龍也がその気にならないはずなどなかった。





そして ―― 、
「さて…と。こんなに俺を咥え込んだあとじゃあ、バイクで帰るのは辛いだろ? 良介に迎えに来させるから、それまでもう一汗流すか?」
「え? 嘘…これ以上なんて壊れちゃうっ! や、やだっ、龍也ぁっ…」





結局、翌日になって良介が車でお迎えに来るまで、克己が散々泣かされたのは言うまでもない。



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この前のお礼がしたいからと皇紀に呼び出された克己は、最近お気に入りのとある喫茶店を待ち合わせ場所にして咲綺にも連絡を取っていた。そこで皇紀が、あの日帰ってからのことを尋ねると、正直な咲綺はありのままを話してくれた。
「えっ?そんなに怒られたの?あちゃ〜…大丈夫だった?」
「はい…なんとか…」
真っ赤になりながらもどこか嬉しそうなのは、それだけ愛されているという証拠と受け取っているせいか?
そして克己も、
「咲綺さんも大変だったんだね。僕もだよ…」
流石に咲綺のようにありのままは話せなかったが、それでもあのときのことを思い出せば白皙が薄いピンクに染まるのは自分でも自覚できるくらいで。
そんな2人を見ながら、皇紀はクスクスと笑いながら呟いた。
「ふたりとも嫉妬深い恋人を持って苦労するね」
まるで他人事のようであるが ―― 実際、皇紀は平気だったから。
むしろあの面倒臭がり屋の魁が、渋滞の中を迎えに来てくれたということだけでも嬉しかったし。その後のいつもより濃厚なSEXに至っては ―― 最高だったとしか言えないくらいだ。
だから、
「でも、克己さんには感謝してるよ。すっごく面白かった♪」
「はい、私もです。それに今度は正毅さんも一緒に行くって約束してくれました」
なんて言われると ―― 克己も満更ではなかった。
「そう? 良かった、楽しんでもらえて」
そして嬉しそうに微笑む克己を見れば、当然またどこかに ―― と言う話になるもので。
この3人はまた恋人たちに内緒で何かを仕出かしそうである。
それは、また別のお話 ―― …。





「じゃあ…今度は海にでも行こうか?」
「「え?」」
「湘南の方にクルーザーを置いてるんだ。そっか、陸よりは海のほうが見つからないで済むよね」
これからの季節、海はいいよ。ちょっと日焼けするけど、なんて言い始めて。
全く懲りてない克己にも困ったものだ。





しかし、
(海ねぇ〜。クスっ…今度は魁がどうやって迎えに来るかな?)
ムクムクと悪戯心がわきあがる皇紀に、
(車はダメって言われたけど…船はダメって言われてないですよね…?)
と咲綺も全く懲りていないようだった。



Fin. or Continue ?

サイト開設2周年記念に、
「wish」の皐月様に押し付けたお話の番外編です。
懲りない受け子たちで…
次はコラボ第3弾で展開ですか?

それでは、今後とも宜しくお願いしますv


2004.08.30. 小早川 浅葱



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