初詣、願う事は「今年もあなたと一緒に」


「一緒に初詣に行きましょうね」
そう言われて気が付いたときには、真夜中なのにやたらと賑わっている近くの神社の参道を歩いていた。



「寒くはないですか?」
まるで当然のように聞かれて、綱吉はハッと我に返った。
「え? あ…大丈夫」
「それならいいのですが…」
咄嗟に笑って応えたのだが、どうやら余り信用されてはいないようだ。
まぁそれも無理はない。
来客を告げるインターフォンに出るだけのつもりだったのにそのまま拉致されてしまったのだから、この真冬の夜中にコートもマフラーもなしである。
唯一、風呂に入る前だったから、パジャマではなかったというのが幸いといったところだ。
しかし寒さを問うのなら ―― 問いかけた本人の方が遥かに薄着である。
見慣れた黒の革ジャンに、中は薄手のシャツ一枚。細身の身体にフィットした着こなしのため相変わらずモデル並みに似合ってはいるが、見ているほうが寒く感じる。
だから、
「オレより、骸の方が寒くないの? かなり薄着に見えるけど」
そう思ったままを告げれば、一瞬、驚いた表情で綱吉を見つめ、ニッコリと微笑んだ。
「おや? 僕の心配をしてくれるのですか。それは嬉しいですね。ですが、僕は貴方と一緒なら身も心も温かいですよ」
「いや、そういう意味じゃなくて…///」
本当に嬉しそうに言うものだから、却って綱吉の方が照れてしまう。
普段は何を考えているのか全く判らないくらいに謎めいているくせに、こういうときだけは子供のように率直なのだ。六道骸という男は。
その上、
「しかし、貴方が僕の身を心配してくれるとは…今年も素敵な一年になりそうです」
「いや、あの…」
「やはり初詣に誘った甲斐がありました」
「だから…」
「少々強引かと思いましたが、余計なオマケが付く前に誘えて、本当に良かったです」
「…」
多分、オマケというのは獄寺とかランボのことなのだろう。思い当たるだけに、これに関しては黙っていたほうが良さそうだ。
因みに骸の方はといえば、少し距離を置きながらも千草と犬が付いてきているようだが、あえてそれに触れる気にはならない綱吉だった。



やがて境内に入れば、そこは流石に初詣客でごった返していて、
「迷子になってはいけませんから…手をつないでもいいですか?」
一応そう尋ねはされたが、答える前に手を握られていたのも事実。
尤も、本当に迷子になりそうなほどの賑わいだから、綱吉もあえて嫌だとは言わなかった。
それに、思ったよりも握られた手は温かくて。
「やはり冷たくなっていましたね。早くお参りを済ませて、帰りましょう」
そう言って本殿に向かうと、骸は二人分のお賽銭を投げ入れた。



「無理に誘って済みませんでした。温かくして休んでください」
幸い迷子にならずに家まで送ってもらうと、骸はそう言って微笑んだ。
「う、うん。ありがとう」
本当に初詣だけだったと気が付けばなんとなく物足りない気もするが ―― へんなことを言えばそれこそ薮蛇にもなるだろう。
そう思って家に入りかけた綱吉だったが、
「…どうしました?」
玄関の扉に手をかけながら、ふと立ち止まった。
そして、
「いや、お前が初詣とか、そういうことをするタイプには見えなかったから、ちょっと意外だなと思って…あ、いや、やっぱりなんでもない。おやすみ!」
北風のせいばかりではなく頬を少し赤らめると、綱吉はそんなことを言って家の中に入ってしまった。
それを、
「全く…相変わらず甘いですね」
満足気な笑みを浮かべて見送ると、骸は夜の道を歩き出した。



二人分のお賽銭で願ったことは ―― 『今年もあなたと一緒にいられますように』
「一年の計は元旦にあるんですよ」
そう誰にとでもなく呟いた骸の姿は、犬や千種からみても本当に楽しそうだった。


初出:2007.02.04.
改訂:2014.08.02.

ぐらんふくやかふぇ