バレンタイン、他の子からは受け取らないで欲しい


2月14日はバレンタインデー。
はっきり言って、俺にはあまり嬉しくない日だ。
「ツー君には、ママがちゃんと用意してるわよ♪」
と、しっかり朝から1個ゲットは確実だけど…思いっきり、リボーンにも馬鹿にされたしな。
フン、どーせオレにくれるような女の子なんて!
あ、でも、待てよ。もしかしたら、ハルはくれるかもしれない。いや、ハルからは貰うのもちょっと困るんだけど。
それよりも、気になるのは…
「…そういえば、京子ちゃんは誰にあげるんだろう?」
この際、義理でもいいや。欲しいなぁ〜、京子ちゃんからのチョコレート。
なんてことを考えていたら ――
「おはようございます。沢田綱吉君」
学校に行こうと玄関を開けたら、そこには黒曜中の制服が三人集まっていた。



「今日はバレンタインデーですね」
中でも一番笑顔が怪しい ―― というか、他の二人は笑顔なんか見たこともない ―― 人物が、ニッコリと微笑んで俺の手の甲にキスをした。
「うわっ、な、何してるんだ、骸っ!」
「何って、キスですよ。挨拶の」
「何が挨拶だーっ!」
全く、油断も隙もありゃしない。
大体、骸たちは黒曜中。並盛中の俺とは、通学路だって反対方向のはずだ。
それなのに、何で毎朝わざわざ遠回りしてうちに来るんだーっ!
「気にしないでください。黒曜と並盛では、始業時間が違うんです」
コイツ、リボーン並みに読心術でも使えるのかっ!
大体、絶対それも嘘だろ!と。…ま、そんなことを突っ込むだけ無駄だけど。
それより、
「イタリアでは、バレンタインデーは恋人同士が愛情を確かめる日なんですよ。日本のように女性が男性にと限ることなく、ね」
こっちの内心なんか全く無視で、そんなことを楽しそうに語る口調が、かなり怖い。
「そ、そうなんだ」
「ええ、そうなんです」
「…」
だから何っ!と聞きたいが…聞いたら、それはそれで怖い答えが返ってきそうな気もする。
そうそう、こういうときには、触らぬ神になんとやら、だ。
それに、
「骸様。そろそろ学校に行かないと…遅刻すると面倒です」
そう言ってメガネのヤセ男が、それこそ忠告するのも面倒そうに言うと、一瞬、骸は思いっきり残念そうな顔をした。
でも、
「…そうですね、千種。では我々も学校に行きましょう」
あの復讐者の牢獄から出す条件は、オレの命令には逆らわないこと。
その一番最初の命令が、「学校にはちゃんと行くこと」だったから、それは守っているようだ。
尤も、ちゃんと行ってはいるみたいだけど ―― 黒曜で何をしているかは疑問だな。
そんなことを何気に考えていたら、
「そうそう、一つ忘れていました」
不意に骸が真剣な表情でオレの両手を手に取った。
「学校にチョコレートを持っていくのは何ですから、僕のチョコレートは帰りにお渡ししますね」
「え?」
僕のチョコレートって…? 骸が、まさかオレに?
「ですから…くれぐれも僕以外からチョコレートは受け取らないでくださいね」
「え?」
「さもないと、意地悪をしてしまいますよ。クフフ…」
思いっきり寒気が背筋を走るけど、そんなことを言った本人はお構いなしで、
「それでは、また帰りに」
そうやって、知らない相手なら10人中10人を騙せそうな笑顔で手を振ると、さっさと信号を渡って行ってしまった。

「な、何だよ、意地悪って…これ以上、何する気だーっ!」
既に視界の範囲からは消えてしまった後姿に、そんなことを叫んでも無駄だった。


初出:2007.02.12.
改訂:2014.08.02.

ぐらんふくやかふぇ