よく晴れた休みの日には、二人一緒に出かけよう


「おはようございます、沢田綱吉君。折角の良いお天気ですから、ちょっと散歩でもしませんか?」
そう言われて気がついたときには、既にいつものように骸のペースに嵌っていた。



「どこか行きたいところがありますか?」
一応はこっちの意志も聞く気があるらしい。でも、元々出かけるつもりさえなかったのだから、突然言われたって思い当たるところなんかあるわけがない。
「別に、ないけど…」
「では、とりあえず歩きましょうか?」
そうニッコリと言われると、それこそ無下にイヤだとは言えなくなる。
本当にコイツはずるい男だ。
絶対に俺が断らないことも、見越しているに違いないよな。
(っていうか、それが判ってるのに付き合う俺って…?)
と自分でツッコミ入れてみれば、だからオメェは甘いんだと、某スパルタ家庭教師の口癖が聞こえてきそうだ。
幸い、バズーカは勿論、飛び蹴りやパンチの気配がなくて ―― 一安心。
でも、
「…はぁ〜」
折角の連休だよ? たまにはゆっくり羽根をのばしてだらだらとしようと思っていたのに〜と思い出せば、つい溜息の一つでもでてしまうってものだよな。
すると、
「おや、もう疲れてしまいましたか?」
ふと立ち止まった骸は、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「いや、そんなんじゃないけど」
「疲れたのでしたら言ってください。ちゃんと抱き上げてさしあげますよ?」
「いえ、結構ですから!」
何でそこで抱き上げる? それに、絶対それだけで済まないことも判ってます!と、マジに身構えて断れば、
「おやおや、信用がないですねぇ。反抗期ですか?」
クフフと笑っている骸がいた。



今年は冬が暖冬で、桜の開花も例年にはない速さと言っていたのに、4月に入ったら冬に逆戻りしていた。
天気は不安定だし、気温は低いし。
それが、今度はGWに入った途端にいきなり初夏の陽気になっていたので、こうして歩くだけでも少し汗ばむくらいだ。
でも、
「随分と緑が鮮やかな季節になりましたね。薫風というのですか? 風も気持ちいいですし」
少し先を歩く骸は、本当に気持ち良さそうにしている。
まぁ確かに。いい季節ではあるよな。
それに、こうしてただ何となく歩くのも ―― 悪くはない。
勿論、いつものように山本や獄寺君達と賑やかに歩くのも楽しいはずなんだけど、それとはまた違っているのも確か。
骸と一緒だと、別に話すことがなければ、それはそれでいいという感じだし。
骸の方も別に俺が応えなくても、満足しているみたいだし。
こうして歩いているだけだと、黒曜ランドであったこともウソのような穏やかさだよなぁ、本当に。
なんてことを考えていたら ――
「何を考えているんですか? 沢田綱吉君」
「え? ああ、たまにはこんな風に歩くのもいいなって…」
「おや、珍しいですね。君が僕のすることに、賛成してくれるとは」
「そりゃあ、別に害とかなければ、俺だって…」
「クフフ…まぁその辺りはあまり突っ込まないことにしておきましょう。折角の良い気分ですからね」
なんか微妙に怖いことを言ってくれたような気がするけど、まいいか。たまには、な。



ところが、



『ねぇねぇ、さっきの見た? ほら、商店街で』
『え? ああ、並盛中と黒曜中の生徒がケンカしてたやつ? なんかすっごい爆音みたいなのがしてたわよね』
『そうそう、それに3丁目の空き地でもやってたの。そっちはバットを持った並盛中の子と、素手なんだけどすっごいスピードで走る黒曜の子でねぇ』
『えーなに、それ。また黒曜中と並盛中ってケンカしてるの?』
『さぁ、最近は大人しくなったって聞いてたんだけどね、何かあったのかな?』
『どーせ、男の考えることでしょ。ろくな理由じゃないのよ、きっと』



そんな女子生徒達のすれ違う会話を耳にして、俺は一気に嫌な予感に襲われていた。
だって今の会話の並盛中と黒曜の男子生徒って、思いっきり心覚えがあるし。
如いて言えば ―― そのケンカの元凶が、多分、きっと、おそらく、絶対…
「おや、どうしました? 沢田綱吉君?」
そういって俺に何事もなかったかのように尋ねる骸の様子は、本当に何も知らないって感じだけど ―― 当然、ウソに決まってる!
「どうした、じゃないだろっ!」
今の女子の会話だって、お前絶対に聞こえてただろっ!
大体、黒曜の2人に獄寺君と山本を襲わせてるのだって…ああ、いや、もしかしたら黒曜のアノ2人が骸のためにって自主的にしたのかもしれないけど、それだとしても、これ以上騒ぎを大きくしないでくださいっ、お願いですからっ!
「もうっ、とにかく行くよっ!」
俺はとぼける骸の手を取ると、とりあえずココから近い3丁目の空き地に向った。



「嬉しいですねぇ。君が僕を誘ってくれるなんて」
ズカズカと慌てて向えば、何か骸が言ってる気がするけど ―― 聞こえない、聞こえない。
大体そんなことよりも、やっぱりコイツの考えることはついていけないよっ!


初出:2007.05.06.
改訂:2014.08.02.

ぐらんふくやかふぇ