照りつける太陽に負けないくらいに、熱くなる


「全く、何が楽しくて…」
そう呟くと、骸はほうっと溜息をついた。



暦の上ではすでに秋になったと聞いてはいるが、実際に照りつける太陽はこれからこそが夏本番と言いたげだった。
しかも、ただじっとその下に立っているだけでも白い肌を焼きそうだというのに、視界に入る人間達ときたら、この炎天下以上の熱気に包まれている。
それでなくても、コンクリートの地面は靴を履いていても熱を感じるほどに焼けついている上に熱せられた空気が足元から這い上がっているし、一応ベンチの素材はプラスチックのスノコ状になっているようだが、それだって素手で触れば火傷をしそうなほどに熱くなっているようだ。
こんなところに1時間もいれば、人間の丸焼き(流石に中身はレア?)ができあがりそうだ。
そんな場所だというのに、見渡してみればほぼ8割の席が黒い頭で埋まっている。
全く物好きな人間もいるものだと呆れるところだが ――
「骸様…」
いつもに増して無表情な千種に呼ばれてそちらを見れば、どこか僅かに浮いた空気の一団が視界に入る。
周りも確かに応援に夢中で賑やかではあるが、その一団は、また別の意味で騒がしそうだ。
そしてその中心に ―― 探していた人物を見つけてしまえば、話は異なる。
「おやおや、あんなところにいましたか。クフフ、この暑いのに、元気ですねぇ」
他のグループがどれも似たり寄ったりのメンバーで構成されている中、そこだけは年齢層もバラバラであれば盛り上がり方も趣を異なっていた。
おかげで、目立つことはこの上ない。
その上、
「てめぇら、しっかり守らねぇと爆破させるぞっ!」
「というか、野球よりもボクシングの方が楽しいぞ!」
「もう、二人とも! 何しに来てるんだよっ!?」
同じ制服なのだから同じ学校と誰もが思うところであろうに、掛ける声援(?)がバラバラなのは、相変わらずのようだ。
しかも、
「あー、骸さんっ、あれっ!」
千種とは対照的に興味津々でグランドを見ていた犬が指させば、そこには同じ守護者が姿を現していた。
「おやおや、これはまた…いいタイミングですねぇ」
戦いのときよりもずっと楽しそうな表情で、バッターボックスに立つ男。必殺の技とよく似た構えで、不敵な笑みを浮かべている。
そして、
―― カキィーン!
思いきりスイングすれば、白い球は大空へと舞い上がった。
そして、
「え?」
「クフフ…本当に、お約束ですね」
真夏の空に舞い上がった白い球は、一直線に大空のもとへ ―― 。



「…で、何でお前までここにいるわけ?」
「どうせキャッチするなら、ボールよりも澤田綱吉の方が捕り甲斐がありますからね」
「…いや、俺のことは捕らなくていいから」


初出:2007.09.16.
改訂:2014.08.02.

ぐらんふくやかふぇ