涼しくなったら、ぴったり寄り添うのが似合うよ


台風一過の翌朝は、抜けるような大空が広がる晴天だった。
「秋の空は高いと言うそうですが、本当にそうですね」
いつものように迎えに来た骸が、ふとそんなことを呟いた。
「真夏の空は、青い絵の具で塗りたくったような感じでしたが、秋の空は透き通った感じがします」
「そうかな?」
「まぁ、台風で空気中の塵などが一掃された後だから、ということもあるのでしょうが…」
そんな風に空を見上げる骸の横顔が楽しそうで、ツナはつい無意識に見入ってしまった。
普段は余り気にしないが、こうしてみれば骸はかなり美形といわれる顔のつくりをしている。
色も白いし顔のパーツも綺麗に整っている。
髪形は…ではどういう髪形なら良いのかと言われても今以上のものが思いつかないし、自分も余り言えた口ではないので言及しないが、その辺りを差し引いても、さぞかし女の子の視線を集めるには十分だろう。
それが何故、こんなに自分に付きまとうのか、不思議に思わないほうがおかしいくらいだ。
勿論、ボンゴレ10代目としてのツナの身体を狙っているということは判っているが、それだけとは思えないところがあるのも事実。
というか、そんな話もあったっけ?という感覚の方が最近では多いくらいで、今は寧ろ、冗談のように囁かれる言葉の方が信じられそうなくらいだ。



『おやおや、信用ないですね、沢田綱吉君。僕がこんなに君を大事に思っているというのに?』
『本当に君は可愛いですね。ますます手放したくないところです』
『Ti amo…』



(しかも、この顔で言うんだからな。ヘルシーランドのことがなければ、信じそうだよ)
思ったことを率直に言葉に出すのがイタリア流ということらしいが、言われるほうは生粋の日本人だ。当然、照れてしまうところで…
「…おや、どうしました、沢田綱吉君? 顔が赤いですよ?」
「え? あ、うわぁぁぁ!」
気がつけば、つい先ほどまで空を見上げていたはずの顔が、すぐ目の前に迫っていた。
色の異なる左右の瞳に、長い睫。その一本一本まで数えることができそうなほどに近くにいたものだから、我に返ったツナは大慌てだ。
「熱でもあるのですか? そういえば、急に冷えましたからねぇ」
確かに、台風がくるまでは厳しい残暑でぐったりしていたところだが、今朝はその暑さが嘘のように冷え込んで、寒くて目が覚めたというのも事実ではある。
「あ、いや、その…ち、ちょっと、風邪気味、かな。そういえば今朝は寒かったもんな」
まるでとってつけたようにそういわれても、そんなことは咄嗟のいいわけであることくらい、骸にはお見通しであった。
だから、
「おやおや、それは良くないですね。暖めて差し上げましょうか?」
というなり、骸は背中から包み込むようにツナの身体を抱きしめた。
「うわっ、な、何やってんだよっ!」
「何って…ハグですね。抱擁でもいいですけど?」
「冷静に言ってるんじゃないっ! ここ、外だぞ。人目ってものがっ…!」
「おやおや、それでは、人目がなければいいんですか?」
言えば言うだけ墓穴を掘っていくようで。ツナは慌てて骸から離れると、
「そういう意味じゃないっ! と、とにかく、遅刻しちゃうよ。急がないとっ!」
と逃げるように走り出せば、それ以上、ツナで遊ぶのは骸も諦めたようだ。



「全く…益々、手を出しにくくなるほど高くなりますね、君は。まぁその方が、口説き甲斐もありますけれど」
そう呟いて見上げた空の高さに、骸は少し眩しそうに目を細めていた。


初出:2007.09.24.
改訂:2014.08.02.

ぐらんふくやかふぇ