食欲の秋、二人で食べればおいしさも2倍


「おやおや、こんなところで修行しているとは、思いもよりませんでしたね」
そんな白々しい台詞でやって来たのは、骸だった。



「な、なんでお前こそっ?」
たまに鍛えなければ体が鈍るぞと連れてこられたのは、本当にここも日本か?と思えるような山奥の秘境。
なんでも、イタリアのなんとかっていう山によく似ていて、リボーンが気に入っている、修行にはもってこいの場所だとか。
「人目を気にせず、死ぬ気で修業するには丁度いいんだ。ちょっと油断すれば、ホントに死にそうになるからな」
なんて、あっさりと言ってくれたもんだ。
まぁそれは ―― 今に始まったことじゃないんだけどな。
そんな人里離れた山奥だというのに、ふらりと現れた骸たち一行に、驚くなという方が無理というもの。
ところが、
「単なる散歩の途中です。気にしないでください」
知らない人間が見れば、清々しいまでの笑顔でさらりと答えたアイツは ―― まぁ確かに、相も変わらずの黒曜の制服姿で、埃一つついてはいない。
本当にちょっと散歩がてらって感じで、手には何も持ってないし軽装そのものって感じなんだけど…えっと、俺、ここに来るまでにかなり死ぬような目にあってたんですけど?
さらりと散歩程度のお気楽さで来れるようなところでもないと思うし、そもそもどこまで散歩ですか? 散歩の定義、間違ってませんかって感じだと思うんだけど…まぁ相手は骸だからな、うん。
言うだけ無駄だし、コイツに常識を期待するのが間違い。
それに、見れば一緒に来ている柿本君や城島君もいつもと変わらずの態度だ。
やっぱりこいつら、只者じゃねぇ…。
そんな骸に、
「よく来たな、お前ら。まぁ立ってないで、てきとーに座れよ」
と、まるで家に立ち寄った友達を招くかのように、リボーンが勧めた。
その上、
「お前ら、腹減ってねぇーか?」
そういうリボーンの前には、いつの間に作っていたのか、即席のかまどにぐつぐつと煮え始めた鍋がある。
ついでにいえば、いつの間に仕留めたのか、熊の巨体がすぐそばに転がっていて…
「秋の山は食材が豊富だからな。良かったら食っていけ。俺の奢りだ」
そんなことを言っているリボーンは、すっかり漁師(マタギですか?)の様相だ。
まぁ確かに、そんなことを言うだけあって、いい匂いもしているけど。
すると、
「アルコパレーノの奢りとは、あとが怖い気もしますが…折角ですから、頂いていきましょう。千種、犬、貴方達も頂きなさい」
まるで引率の先生のように、骸がそう促すと並んで座っていた。



「そういえば、途中でとても綺麗な茸があったんですが、千種に止められたので食べそこなってしまいました」
リボーンに言われて(って、何で俺が!?)谷まで降りて水を汲んでくると、それを待っていた骸が残念そうに呟いた。
「…骸様、あれはワライダケです」
ぽつりと、柿本君が答える。
「おや、そうでしたか。でも、犬は食べてましたよね?」
「ひゃはは…らって、ククク…骸さんが投げて寄越すから…ぎゃはは…」
「楽しそうでなによりですね。でも、どうせなら、千種に食べさせた方が面白かったかもしれません。そうすれば、もう少し明るい性格になれたかもしれませんねぇ」
いや、それは意味が違うから。
ついでに、まさかそれをこの鍋にも入れてないよなっ!と思うが…いや、それ以上のものが入っている可能性の方が高いかもしれないぞ。
そんな不安で不審げに鍋を見ていたら、
「…そうですね、どうせ食べるなら、僕はボンゴレの方を食べたいですね。今夜など、いかがですか?」
食欲の秋といいますから、なんて ―― それ、意味違うだろっ!



「食欲の秋ですからね。楽しく食させていただきますよ?」
「いえ、絶対に遠慮しますからっ!」


初出:2007.10.07.
改訂:2014.08.02.

ぐらんふくやかふぇ