01 恋の足音


「おやおや、これは…」
不意に外の気配が変わったことに気がついて窓辺に立つと、骸はそこに見慣れない少年の姿を見つけた。
「あれは確か、並盛中の制服ですね」
白いシャツに赤いネクタイ。
とてもシンプルだが、それだけに、ここにいる黒曜の不良たちとは違うということがすぐに判る。
それに、
「腕に腕章…成程。彼が並盛のナンバー1、雲雀恭弥ですか」
並盛では最強と聞いてはいたが、所詮は日本の中学生。
そう高を括っていたのだが ――
―― バキッ!
―― ドンッ!
―― ビシュッ!
降りかかってくる黒曜の不良たちを、まるで厄介なハエでも追い払うかのように薙ぎ払い、ぶちのめし、叩き潰す。
いやそれどころか、転がる身体を踏みつけて、蹴散らすたびに ―― その表情は愉しそうにすら見えている。
(ほぅ…これは…おもしろそうですね)
手にしているのは、トンファー ―― それも仕込みになっているようだ。多数を相手にするには、あまり都合がよいとは思えないが、その扱いは手馴れているようだ。
ぬくぬくとした平穏にまみれた日本人には思えないほど、暴力に対する忌避がないところも素晴らしい。
それこそ、こんな平和な場所に住まわせておくのが、惜しいくらいだ。
「これは…目的とは違いますが、アタリかもしれませんねぇ」
血を吸った仕込みトンファーを構える姿も、少し返り血を浴びて見せる笑顔も。
そんな姿に見入っていれば、
「たらいまっれす〜」
並中4位狩に出ていたはずの犬が、跳ねるように飛び込んできた。
「おや、犬。帰りましたか?」
「あい、あーっと、4番目もはずれっした」
「そうですか。それで、お土産ですか?」
「へ?」
そう言われて犬が外を見れば ―― 雲雀はとうとうこの建物の入口まで来ている。
「あれ? もしかして、オレ、付けられてたびょん?」
「どうやらそのようですね。クフフ…でもいいですよ」
ヤバイと、怒られることに身を竦めた犬だが、骸はまるでご褒美のように頭を撫でた。
「僕も退屈していたことですし、折角のお出でですからね。僕が相手をしましょう。犬は手出しをしてはいけませんよ」
「あーい」
ホッと嬉しそうに、無邪気に笑う犬にそう言うと、骸は愉しそうに耳を澄ませて、ソファーに身を沈めた。



―― ザリッ、ザリッ…バキッ…ザリッ…
割れたガラスや砕けた廃材を踏みつけて進む足音が聞こえてくる。
そして、
「やぁ、よく来ましたね」
(さぁゲームを始めましょう。精々、期待を裏切らないでくださいね)


初出:2007.06.17.
改訂:2014.08.02.

Breeze Area