02 咬み殺してやりたい


身体中が悲鳴を上げているような気がする。
ああ、違う。本当に、悲鳴を上げているんだ。
どうやら麻酔が切れたようで、あの忌々しい怪我の痛みが再び感覚として戻っていた。
多分、熱もあるんだろう。
息が苦しくて、喉が渇く。
だから、軋む身体をなんとか動かしてベッドの横を見れば、サイドテーブルの上に水とコップが目に入った。
それを取ろうと、手を伸ばそうとしたところ ――
「こんばんは、雲雀恭弥」
今、一番聞きたくない声が耳に入った。



薄闇に浮かぶ青い髪に白い顔。
僕を見下ろす瞳は左右で色が違っていて ―― 見ただけで殺意を呼び起こすヤツだ。
そう、名前は確か ――
「六道骸ですよ。覚えてくださいね」
まるでこちらの思っていることなんかお見通しとでも言いたいのか。その独特の口調だけでも、殺したくなる。
ところが骸は、そんな僕の内心など気にもしないように、
「どうしてここに?、と言う顔をしていますね。お答えしましょうか?」
僕が横たわっているベッドに勝手に腰を下ろして足を組むと、あの何を考えているか判らない笑顔を向けてきた。
「君に逢いたくなったので来てあげたのですよ。怪我の具合はいかがですか?」
身体が動けば、叩き殺して窓から放り投げてやるところだよ。
大体、例の桜なんとかっていう病気とやらで動けなかった僕を怪我させたのは、お前だろう?
そう内心で呟いて睨みつければ、骸は益々嬉しそうな笑顔を見せた。
「可愛そうに、まだ麻酔が効いているんですね。声が出ませんか?」
フン! 君とはもうしゃべらないって言ったでしょ。忘れたの?



確かに倒したはずだった。それに、何とかっていう組織に掴まったとかって、あの赤ん坊が言っていたはずだ。
それがなんでここに ―― いや、まぁいい。
こうして目の前にいるのなら、もう一度僕が噛み殺してやるだけのこと。
それなのに、肝心の僕は、見動き一つできやしない。
多分、治療で使った麻酔のせいだ。あとで院長をトンファーの餌食にしてやる。
仕方がないから、唯一自由になる目で睨みつけていたら、
「そうそう、喉が渇いているのでしたね。お水でも飲みますか?」
そう言ってサイドテーブルのコップに水を注ぐと、骸は何故かそれを飲んでしまい ――
「…っ!」
いきなり口移しでそれを僕に飲ませた。
「…もう少し眠ったほうが良さそうですね。今日は流石にお疲れでしょうから」
口の中の水を全部僕に飲ませると、骸は漸く僕から離れた。
そして、
「全治には1ヶ月ほどでしょうか。早く治るといいですね」
そう言って ―― ふわりと姿が消えた。



今日、噛み殺さなかったのは、水を飲みたかったからだよ。
次は必ず噛み殺してあげる。
姿が完全に消える瞬間に、「また来ますね」と微笑んだ顔にそう告げると、僕は再び目を閉じた。


初出:2007.07.22.
改訂:2014.08.02.

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