03 てのひらを突く


愛用のトンファーを何気に振り下ろしたら、止まった先には骸の白い掌があった。



「何をやってるの?」
トンファーに仕込まれていた鉄球が食い込んで、白い掌を赤く染めていた。
白い肌に赤い血。
まるで骸の右目と一緒だと思ったけど…なんとなく違和感があるのは、どうしてかな?
しかも、憎たらしいほどに自然なままで、少しも痛がってないところが本当に忌々しいよ。
「酷いですね、雲雀恭弥。折角逢いに来たというのに、この御出迎えですか?」
あっさりとトンファーを外して手をひらひらと振って見せて。
それだけで、さっくりと切れていたはずの傷口は影も形もなくなって、滴っていたはずの赤い血まで消えている。
ああ、成程ね。そういうことか。
ここにいるのは ―― 本当の骸ではないということ。
判ってるよ、そんなことは。
だけど、
「呼んだ覚えはないんだけど?」
幻覚だかなんだか知らないけれど、その姿は紛れもない。
だからちょっとだけ話相手になってやれば、骸はクフフと笑って応えていた。
「おやおや、そうでしたか? 僕には貴方の声が聞こえたと思ったんですけれどねぇ」
相変わらずしゃあしゃあとよく言うね。本当に ―― 自分勝手な男だよ。
「部外者による校内への不法侵入だよ。噛み殺されても文句は言えないよ」
「部外者ではないでしょう?」
「キミは並盛の生徒じゃないでしょ?」
「並盛の生徒ではありませんが…貴方をよく知っていますから」
「僕を知っていたら部外者じゃないと? 随分な自信だね」
「クフフ…それは、貴方が一番良く知っているでしょう?」



「どうせ突くなら、ココにして欲しいですね」
不意にそう言って骸が指差したのは ―― 左胸。幻覚の癖に、鼓動を感じさせるなんて、本当に手が込んでるよ。
しかも、
「貴方に突かれるなら、本望ですよ」
そんなことを笑って言うから、無性に腹が立った。
「…だったら、絶対に突いてなんかやらない」
「おやおや、ご機嫌斜めですね」
「キミのせいだ。僕が悪いんじゃないよ」
そう言って背中を向ければ、いつものようにクフフと笑っている気配がした。
なんか ―― ますます腹が立ってきた。
だから、



「本当はね、とうの昔に…もう突かれてるんですよ」



そんな言葉だって、聞いてなんてあげないよ。


初出:2007.08.01.
改訂:2014.08.02.

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