04 いっぱいの桜


久しぶりに雲雀君との共同任務ということなので、待ち合わせを計画してみました。



『なんでキミと一緒にいかなきゃいけないの?』
「たまにはいいじゃないですか?」
『答えになってないよ』
「勿論、どうしてもというわけではないのですけどね。ちょっと思いついたから言ってみたまでですよ」
群れることは殊のほか毛嫌いする雲雀君ですからね。断られるのは当然、想像の範囲です。
それでも、
「たまには雲雀君と並んで歩いてみたいと思ったんですよ」
そんなことを囁いてみたら、受話器の向こう側は沈黙に閉ざされてしまいました。
おやおや、これは本気で怒らせたかもしれませんね。
まだ通話は切れてはいませんが、愛用のトンファーを握り締めてどう噛み殺してやろうかと思案する雲雀君の姿が想像できそうです。
ところが、
『…言っとくけど、僕は待ったりしないからね』
ワントーン落とした小さな声がそう受話器から流れると、その後は無機質な電子音だけが耳に届いていました。



待ってはくれないと言っていた雲雀君ですから、ちょっと早めに待ち合わせ場所に行っていました。
今日もいいお天気です。川沿いには満開の桜が咲き誇っています。
盛りを過ぎた桜の花は、そよ風にもはらはらと花びらを降らせていました。
「さて、そろそろ時間ですが…」
そんなことをふと呟いて川下に失線を向けると、桜吹雪の中を歩いてくる雲雀君の姿がありました。
どこか不機嫌そうで、それでいて拗ねたような頬が可愛らしいです。
「満開の桜の中の雲雀君と会うのは、これで二度目ですね」
そんなことを言った途端、雲雀君の視線に殺気がこもります。
ああ、本当に、なんて心地の良い視線でしょうね。
僕だけに注がれるこの殺気ほど、心地よいものはありません。
「仕事の前に、キミから噛み殺してあげようか?」
「クフフ、それも楽しそうですが…今回は遠慮しておきます」



薄紅色の可憐な花びら。
風に吹かれて舞い上がり、川面に静かに降り注いでいます。
本当にのどかな春の日差しで、これからマフィアを一つ潰しに行くには絶好日和の一日でした。


初出:2009.05.03.
改訂:2014.08.02.

Breeze Area