01.こんな状態ではやっていける気がしません


こっちこっちと手招きされてやってきたのは、とあるレジャー施設の廃墟。
なんでも今度は日本に住むことになったとか言っていたが、まさかここが住処か?と思った俺に、骸はいつもの笑顔で答えた。
「勿論違いますよ。ここはこれからボンゴレ10代目達たちと遊ぶ場所です。いくら僕だって、こんなところに寝泊りはしたくありません」
「じゃあ…」
「いやですね、先輩。だから貴方を呼んだんじゃないですか?」
「…」
「流石に中学生では不動産屋も相手にしてくれないんです。やはりまだ世間的には保護者が必要なんですよね、僕たちには」
そう言ってニッコリと微笑む骸は、ゾクリとするほどに恐ろしい。
まぁ判っていたことだ。
今は亡きかつてのボスに『骸の面倒はお前が見るんだ』と言われてから、俺がコイツには逆らえないということは。
(そういえば…あの頃から骸の笑顔には逆らえなかった)
だから、
「…で、どんなところがいいんだ?」
そう尋ねて、俺は駅前の本屋で買ってきた「住○情報誌」をぱらぱらとめくった。
すると、真っ先に手を上げたのは犬だった。
「近くに遊べるところが欲しいびょんっ!」
カジノ…は日本にはないからゲーセンか、健全に広い庭とか公園とか?
「シャワーが浴びたい」
シャワー付きか。光熱費が少々かかるな。
「日向ぼっこができる場所が欲しいびょんっ!」
南向きの日当たり良好…
「買出しは一箇所で済ませたい」
スーパーの近く…
「あ、ふかふかのベッドがいいびょんっ!」
ベッド? じゃあ、部屋はフローリングでそれなりの広さ…
「洗濯物を干すの、めんどう」
乾燥機つきの洗濯機を置ける浴室…って、おいおい、お前ら…
「あーと、寝るのは骸さんと一緒がいいびょんっ!」
「では、僕のベッドはキングサイズでお願いします。先輩も僕と一緒が良いのでしょう?」
「 ―― !」
厚さ5センチはあろうかという雑誌を足の上に落として、俺は声にならない悲鳴を上げた。



「本当に、貴方が子供好きで世話好きで面倒見の良い人で良かったですよ、先輩」
そう言ってニッコリと微笑む骸の笑顔が、ランチア、苦難への始まりだった。


初出:2007.03.17.
改訂:2014.08.02.

ぐらんふくやかふぇ