02.話し合いの場に出てきなさい


とりあえず、ランチアが用意したのはとある古い洋館だった。


なんでもあの「黒曜ヘルシーランド」の経営者が自宅用にと建てたものだそうで、あちらと同様、繁栄したのはほんの僅か、あれよあれよという間に寂れ、廃れ、人手を転々とした挙句に放置されたらしい。
おかげで近所 ―― といっても、半径1km以内には誰も住んでいない ―― からは、「お化け屋敷」とかっていわれているとかで、広さの割には格安だったということだ。
「いいですね。絶妙な趣がありますよ」
昼間でも鬱蒼とした山を背後に建つ古びた洋館は、確かに絶妙な趣があると思う。この山の反対側がヘルシーランドだから向こうを拠点としても問題はないし、地理的には並盛中や黒曜中へも行きやすい。
まぁどんなところでも、骸様が気に入ったのなら俺はとやかくいうことはないし、寧ろ、犬は大喜びだ。
「すっげーびょん、柿ピー! ここの階段、もうちょっとで抜けそうびょんっ!」
「あ、そう」
「こっちの窓なんか割れてっから…このまま外に出れるびょんっ!」
「…割れてなくても、そうするだろ、犬は」
「あー、ここなんか、天井に穴が開いてる! おもしろいびょんっ!」
「…」
面白いって…そういう問題じゃないと思うんだけど。でも、わざわざそれを言うのも、めんどくさい。
まぁ本当にお化け屋敷だよな。おかげで犬ははしゃぎすぎてて…本当に煩いよ。
でも、そんな犬を、
「クフフ…犬も気に入ったようですね」
「はい、骸さんっ! ここ、おもしろいれすっ!」
ああ、全く。骸様は犬には甘いから。
大体面白いのはいいけど、寝泊りするところだっていうの、わかってるんだろうか?
ま、別にいいけど。
とりあえず…
「…シャワー、浴びたい」
部屋割りはどうするんだろう? これだけ大きな屋敷だから、部屋数だけはありそうだけど…使える部屋があるのかが問題だよな。
なんてことを考えてたら ――
―― ガラガラ…ガシャーン!
―― メキメキ…バキッ!
―― ザバーッ!
「…」
いきなり目の前の天井が抜けて、そこから大量の水が降ってきた。



「何か凄い音がしましたが…大丈夫ですか、犬?」
「はい、大丈夫れす、骸さんっ!」
「そうですか。あちこちガタが来ているようですから、気をつけてくださいね」
「はーい!」



パタパタと楽しそうに走り去っていく犬の気配に、流石にこれはヤバイだろうと思う。
でも、まぁ開いた天井はしょうがないし、とりあえず水は来ているということみたいだから。
「…シャワーしよ」
とりあえず部屋を確保してしまおうと、千種は足場を確認しながら二階に上がった。



買出しから帰って来たランチアが玄関を開けると、そこは酷い有様になっていた。
階段は途中で崩れて、壁や窓は穴だらけ。
その上、天井の一画に大きな穴が開き、そこから水が滝のように流れていて ――
「誰かこの状況を説明しろっ!」
そう叫んでも、応えてくれるような殊勝なものがいるはずはなかった。


初出:2007.03.27.
改訂:2014.08.02.

ぐらんふくやかふぇ