04.午前2時から始まる会合


そもそも日本に来たのは ―― 名立たるマフィアでも1、2位を争うボンゴレ・ファミリーの次期後継者を手中にするためでした。
何でも引退して日本に渡った初代の子孫だとかで、未だ14歳の子供だとは聞いています。
ですが、神の采配と謳われ人を見抜く力に優れているボンゴレ9代目が選んだ人間です。
甘く見ればこちらが危険とも思い、わざと隣町の中学に潜伏してという回り諄い策を選んだのです。
「なんでそんな、めんどーなことするびょん? さっさと見つけて捕まえてきちゃえば良いんじゃないんれすか?」
そういう犬の主張も尤もだとは思いますが、何せ相手はマフィアでも最強を誇るボンゴレですからね。その上、どうやらアルコパレーノもついているという話もあるようですし。
それにどうせその存在を奪うのならば ―― 能力ごと奪った方が後々のためにもなるというものでしょう。
ですから、
「もうちょっと様子を見ましょう。クフフ…慌てることはないですよ。楽しみは最後に取っておく方がワクワクするでしょう?」
そう、だから。まずは足場となる黒曜中を固めようということにしたのですが…まさかこうなるとは誤算でしたね。



「ランチアのおっさーん、ここ教えてくれびょーん」
予定の時間までと、ダイニングで食後のコーヒーを愉しんでいたら、そう言ってやってきたの犬でした。
勿論服は黒曜中の制服で、右手には数学の教科書とノートを持っています。
「おや、犬。勉強ですか?」
「はい、骸さんっ! 今日の宿題れすっ!」
そう言って ―― あれば絶対に尻尾を振っているだろうと思うような笑顔の犬は、ここ数日は随分と楽しそうですね。
考えてみれば、あの研究所を出てからは殆ど一箇所にとどまった生活など ―― 刑務所は別として ―― していなかったし、当然、同年代の人間と一緒の生活なんてありえませんでした。
多くの人間から見ればごく当たり前の生活でも、僕達には新鮮で楽しいものであるのも嘘ではないというところですか。
「学校は楽しいですか、犬?」
「はい、とっても! きゅーしょくもおいしいし、ケンカも楽しいれすっ!」
それもどうかと思いますが…犬が楽しいのでしたらいいですね。
そう思って頭を撫でてやれば、犬は本当に嬉しそうに目を細めていました。
ところが、
「悪い、城島。ちょっとこれは、難しいな」
犬が持ってきた数学の教科書を見ていた先輩がそう言うと、犬は途端に困ったような表情を見せました。
「えーなんれ? ここやっとかないと、ヤバいんれすって!」
おやおや、犬がこんなにマジメだとは思いませんでした。
とは言っても。流石に現役を離れた先輩では、中学生の数学も難しいようですね。
「数学でしたら、千種に聞いてはどうですか?」
確か千種は学年でもトップクラスの成績だったはずですよ。
そう思って言ったのですが
「ダメなんれすよぉ。柿ピーってば、解き方は教えてくれないんれす。いきなり答えを言うんらもん」
「…解き方教えるの、面倒だから」
いつの間にかきていた本人に言われてしまいましたね。
僕としては答えを教えてもらった方が早そうな気がするのですが ―― どうやら犬としては、ちゃんと判るようになりたいのですね。
でしたら、
「…仕方がないですね。いいですよ、僕が見てあげましょう」



「ところで、骸様。今日はボンゴレの件で打ち合わせをしようと言うことだったと思いますが…?」
そんなことを千種が言い出したのは ―― なんとか納得した犬が問題を自分で解けるようになったころのことで。
「ああ、そうでした。そろそろ10代目を炙り出そうかと思っていたとこなんですが…」
と言いかければ、解けるようになんって満足したらしい犬が、こっくりこっくりと眠そうにしています。
僕も明日は生徒会の方に顔を出そうと思っていましたし。
千種も確か、日直でしたから ―― 仕方がありません。
「また今度にしましょう。時間はゆっくりありますから」
それとも眠気覚ましにホラー映画でも見ましょうか?と言えば、他の3人は揃って次回を希望しました。



草木も眠る丑三つ時。
どうせ悪巧みをするのなら ―― ムードもそれなりがいいですよね、クフフ…。


初出:2007.05.20.
改訂:2014.08.02.

ぐらんふくやかふぇ