06.冷蔵庫は食べ物を入れるものです


流石に大所帯だからと、先輩がどこからか購入してきたのは大型の冷蔵庫でした。
「日本の夏の湿度は半端じゃないからな。冷蔵庫は必需品だろう?」
そういって、早速買ってきた食料品を詰め込んでいきます。
(こういうところ、結構マメなんですね、先輩は)
一応、育ち盛りの少年が三人ですからね。確かにエンゲル係数は高いのです。
でも、食べ物が腐るまで残っていることなど今までの生活では考えられませんでしたから、なんだかちょっと新鮮な気分ですね。
「冷蔵庫があれば買い置きもできるからな。但し、賞味期限は忘れるなよ」
そんなことを言いながら、先輩は犬用の牛乳に、千種のレトルト食品を片付けています。それなら、僕はこの前買ってきたチョコレートをしまっておきましょうか?
しかし、本当に大型サイズです。
それこそ、
「裕に人間一人くらい、楽に入れられそうですねぇ」
何気にそんなことを言ってニッコリと微笑めば、何故だか先輩が引きつった顔で僕を見ました。
「骸。くれぐれも冷蔵庫は食べ物を入れるところだからな」
「クフフ、失礼ですねぇ。そのくらいは僕だって判ってますよ」
大型の冷蔵庫。感じとしては、そうですね。よく古いアメリカ映画とかに出てくるような、冷蔵室と冷凍室だけがついた、とてもシンプルな形のものです。
ですから、大きな扉を開けてみれば、中はがらんとした空洞になっています。
一応、整頓して入れられるようにと網棚が何段かついていますが、それを外せば、ほら、軽く大人だって入れられますよ、と。
「そういえば、死体って腐りやすいですからねぇ。冷蔵庫に入れておくっていうの、判る気がします」
「…お前が言うと、冗談に聞こえないぞ」
「ええ、冗談ではありませんから」
埋める労力よりも、冷蔵庫に冷やしておくほうがずっと楽な気がします。
本当に死体って、処分には困りモノですからね。
今までのように、殺してそのまま放置しっぱなしというわけには行かないでしょう、日本に定住するのであれば。
ただ ―― いくら大きいとはいっても、人一人がいいところですからね。殺すたびに冷蔵庫を買い換えていたりすれば、それこそ家中が冷蔵庫だらけになってしまいますね。
いえ、流石に人間一人は大変ですけど、一部分なら良いかもしれません。
そう、例えば ――
「スキルを使わないときに、僕の右目を冷蔵庫にしまっておくというのもいいかもしれませんね」
例えばガラスのコップに水を入れて、その中に取り出した目玉を浮かべて冷蔵庫へ。
冷たい世界から見るこの世は、どんな感じかそれも面白そうです。
でも、先輩にはそんな酔狂は通じないようです。
「…骸」
まるで傷だらけの子供を見るような痛々しさで見られたら、苦笑するしかないですね。
「クフフ…冗談ですよ。そんなことをしたら、犬辺りに食べ物と間違われてしまいますからね」
別に、このスキルを手放したいわけではありませんよ。



たまに、もしも無かったとしたら ―― とは思いますけれどね。


初出:2008.01.06.
改訂:2014.08.02.

ぐらんふくやかふぇ