07.ひょんなことからジェンダー論


「余計なこと、するなって言ったびょんっ!」
不意に聞こえてきた犬の怒鳴り声に、俺は思い切り溜息をついた。



向かったリビングでは、思ったとおり犬がクロームに怒鳴り散らしていた。
ムキになって怒鳴っている犬とは正反対に、クロームの方はただ聞いているだけだ。
これで泣かれでもしたら大慌てになるのは目に見えてるんだけど、流石にクロームの方もこの程度ではけろっとしているくらいに逞しくなっている。
まぁ犬がクロームに噛みつくのは今に始まったことじゃないし。
それどころか、クロームも反論とかしないから、犬としても言いすぎて止めるタイミングが掴めないんだよね。
要するに今は一番骸様に近い存在であるクロームに焼餅を焼いてるってことなんだけど…ホント、面倒くさい。
「…何やってんの?」
仕方がないから俺が声をかければ、気がついたクロームがホッとしたような息をつく。
うん、それは判るけど…なんで犬まで「助かった」って顔、するかな?
「柿ピー、聞いてびょんっ!」
とはいえ流石にそんなことがバレているとは気が付いてないみたいだよ。全く…疲れる生き物だな、犬は。
「この女、今日の晩飯は自分が作るなんて言うんだびょん!」
それのどこが悪いんだろうと思いつつ、俺はクロームに尋ねる。
「…えっと、今日の当番、クロームだった?」
「ううん、ランチアさん。…でも、遅くなるって言ってたから…」
「ああ、そういえば…」
今日はボンゴレのところの子供たちの相手をすることになったとかって言ってたっけ。あれで結構子ども好きな上に、好かれるんだから…不思議だよね。
まぁそんなことより、それなら別に問題ないというか…そもそも自主的にやろうっていうのはイイコトだと思うんだけどね?
まったく、へんなところで張り合おうとする犬だから、クロームのやることなすことが気に入らないらしい。
「だからって、なんでお前がするびょんっ!」
「私、女だし…料理くらいは…」
「だったら俺が作るびょんっ!」
「…犬、お菓子は晩飯にならないからね」
全くいい加減にしなよ。



「ばかねぇ、クロームは。いまどき女だから料理をしなきゃなんてことはないのよ。女の価値は、いかに男に貢がせるかで決まるんだから」
そんなことをわざわざ忠告しにきたMMにも困ったものなんだけど…まぁいいか。面倒だしね。


初出:2008.03.01.
改訂:2014.08.02.

ぐらんふくやかふぇ