08.奇怪な音が聞こえてくるのですが


いつものように3人で黒曜中に向かう途中で、そういえばと言い出したのは千種でした。
「最近、夜中に妙な音が聞こえる気がするんですが…」
面倒なことが苦手な千種でしたが、その千種がいうのだから嘘ではないのでしょう。僕は興味深そうに聞き返しました。
「妙な音ですか。それは気がつきませんでしたね。どんな感じですか?」
「それが唸り声というか、呻き声というか…」
といいながら、千種の視線はさりげなく犬の方に向けられています。
確かに、唸り声なんていったら犬と思うのは無理ないところですよね。僕もそう思います。
ところが、
「か、柿ピーはムッツリだから、空耳でも聞いてるんだびょんっ!」
慌ててそんなことをいう犬は…白々さ100%ですね。
「…意味判んないよ」
「う、うるさいびょんっ! 大体、なんであんな時間に柿ピーが起きてるんだびょんっ!」
「それって、つまり、あのへんな音の正体はやっぱり犬ってこと?」
「 ―― っ!」
…本当に、馬鹿な子ほど可愛いとは言いますが、ね。



「ああ、あれね。犬は歌の練習をしているみたいよ」
そんなことを言い出したのは、教室であったMMでした。
どうやら一度、犬に音階のことを聞かれたそうです。
確かにMMはクラリネットというものを愛用していますが…ちょっと普通とは使い方が違うはずですよね。
(ついでに言えば、犬の聴力だと普通の人間には聞き取れない音まで聞きそうですけど?)
まぁそれはいいとして。
「歌、ですか。またそれは意外ですね」
授業でも音楽のときには率先して寝ているかさぼるかしている犬だと思ったのですが、どういう心境の変化でしょうね? そこはやはり…気になるものです。
そんなことを思ってみたのですが、まさかMMからそんな話を聞くとは思いませんでしたよ。



「だって、骸ちゃんもいけないのよ。ボンゴレの雲の守護者とデュエットなんてするから」



つまり、犬は僕が雲雀恭弥とCDを出したことに納得がいかないようですね。
クフフ…やきもちですか? それはまた、随分と可愛いじゃないですか。
「本当に可愛い犬ですね。いいですよ。いつでも一緒にデュエットしてあげますよ」
そう言ってカラオケに誘ってあげれば、それこそない尻尾を振るように嬉しそうなところがまた可愛いですね。
そのくせ、
「カラオケなんて、俺、行ったことないびょん」
流石にちょっと自信がないのか、尻尾や耳をうなだれた様な感じが、また…可愛いですね。
「大丈夫ですよ。僕がちゃんとエスコートしてあげますよ」
それこそ手取り足取り ―― とは、まぁ口には言いませんけどね。



「…骸様。大丈夫ですか?」
「心配は要りませんよ、千種。たかがカラオケですから。ただ、どうせなら…制服では味気ないですからね。何かいい衣装を考えないといけませんね」
「…やっぱり衣装からなんですね」


初出:2008.12.31.
改訂:2014.08.02.

ぐらんふくやかふぇ