一緒に世界を変えませんか?


そこで最初に見えたのは、何の変哲もない白い壁でした。

(ああ、また別の世界に来たようですね)

僕はずっと違う世界を巡り続けていました。
確か最初は、怖いモノが一杯出てくる世界。
でもそれは現実ではないと判ってしまうと、僕にはその怖いモノさえ操ることができるようになってしまいました。

その次は、全てを僕から奪う世界。
でもそれも、何もかも ―― 僕の身体すら誰かに取られてしまってからは、逆に僕があらゆるものを奪い取ることができるようになってしまいました。

それから ―― そうそう、沢山のイキモノが出てくる世界もありましたね。
あのときは、僕の身体に沢山のイキモノが群がって、食べられてしまったかと思ったら、そのイキモノたちが僕の手足のように従うようになっていました。

それから、それから…
全てのモノが戦っている世界 ―― なんていうものもありました。
開けても暮れても、時間の感覚なんてなくなっても戦い続けたおかげで、僕も何度も殺されてしまった分だけ、強くなったと思いますよ。

(だからといって、「死ぬ」時の痛みや恐怖には、慣れることはありませんけどね)

そのほかにも、僕は色々なカタチで色々な世界を体験しました。
あるときは大空に羽ばたく鳥であったり、あるときは四足で大地をかける獣であったり。
勿論、ヒトであったこともありましたね。
男であったり女であったり、子供であったり大人であったり…。

でも沢山の世界を巡ることはできても、絶対にできないことがただ一つだけありました。
それは ―― その世界に居続けること。
その世界の理を知ってしまったら、世界はいつも音を立てて崩れてしまいました。

僕にとって、世界は巡り続けるもの。
通り過ぎていくものだから ―― 立ち止まって休めるところはありません。
そう、きっと。
きっと、次の世界も ――



そして、今。僕は再び新しい世界に辿りついたようです。
今度の世界は、白い壁とごちゃごちゃとした機械。
身体を動けないように固定する手術台と、身体を切り刻むための道具。
あとは ―― 僕をモノのように観察する大人たちが数人。
同じように薄汚れた白衣を着て、同じような目でしか見ないから、僕には顔が違っても皆同じにしか見えませんでした。

(また、つまらない世界のようですね)

どうやら視界が狭いのは、僕の右目を塞ぐモノが貼られているからのようでした。
丁度そう思ったときに聞こえてきたのは、人間の ―― 多分、子供と思える悲鳴。

「…やはり取るに足りない世の中だ」

それが酷く耳障りで仕方がなかったから。
だから ―― それだけの理由でした。

「全部、消してしまおう ―― 」

起き上がろうとしたら白衣の男が止めようとしたので、壊しました。
それを見た別の男が何か騒ぐので、壊しました。
それからやはり別の男が僕に向かってきたので、壊しました。
それから…

(…なんて惰弱なんでしょうね、この世界は)

そうして漸く静かになったとき、僕を見つめる視線に気が付きました。
まるで縋りつくような視線。
純粋な驚きと、そしてどこか憧憬を感じさせる、心地よい視線に。
それがとても心地よいから、それだけは壊さずに声をかけてみました。


「一緒に ―― 来ますか?」


そして ――
―― 一緒に世界を変えませんか?


初出:2007.03.04.
改訂:2014.08.02.

Studio Blue Moon