Reminder


「冥土にゃ、このレプリカを持って行きな…」
コロリとレプリカを転がし、オレ様は血まみれの千年眼を手に入れた。
「ククク…千年眼(ミレニアム・アイ)、ゲット…ハハハ ―― !」
もう一人の遊戯に負けた決闘場で、更に千年眼まで奪われたペガサスが血塗られた姿のままただ座り続けている。
それを見返ることもなく後にすると、バクラはペロリと千年眼のこびりついた血を舐め上げた。
「クク…相変わらずの極上だぜ、金に映える血の色はな…」
その昔、かつての所有者から奪おうとしたときも、千年眼は血に濡れた。
七つある千年アイテムの中でも、千年眼は最も小さいアイテムである。
それゆえに、所有者は片目を犠牲にして自らの体内にアイテムを装備する。当然、それを奪うためには血が伴うのは必定である。
「これで千年アイテムは2つ。次はどこに眠っているのか…?」
血塗れた手で血まみれの千年眼を握り締める。すると、記憶の洪水のように様々なビジョンがバクラの脳内を駆け巡った。
恐らくは最も近しい記憶の流入 ―― それはペガサスが遊戯達に語った千年眼との出会いに始まり、そして最近のバトルへと及んでいた。
ペガサスと対峙していた海馬瀬人の姿を ――
「ああ、そういえば、宿主サマが言ってたな…」
余りちょくちょくと表に出ては名も亡きファラオ ―― もう一人の遊戯に警戒されるから、バクラはペガサスと海馬のデュエルの最中は表には出ないでいた。
もちろんその前の遊戯と海馬のデュエル中もだ。
だからもう一人の人格であるバクラとしてじっくりと海馬を視界に止めたのはその時が初めてで ―― その瞬間、バクラは驚愕に叫んでいた。
「な…んだと? まさか…」
忘れるわけがない蒼い瞳。
玲瓏で他を寄せ付けない絶対のプライド。
目的のためならどんな汚いことでも平気でやるくせに、決して汚されることのない孤高の魂。
盗賊王の名をほしいままにした闇の人格であるバクラが、たった一度きりの『約束』を交わした唯一の存在。
そう、三千年たった今も千年アイテムを求めてやまないその理由は、かの佳人との『約束』に他ならないのだから。
「ククッ…そうだよな、王サマでさえこの世に舞い戻っているんだ。アイツが戻ってくることに、なんの不思議がある?」
忌々しいファラオだが、このときばかりは心から感謝をしたい心境になった。
そう、アイツが王サマから離れて存在するわけなどない。あれは太陽と月のように常に一対で存在するものなのだから。
しかし ――
「今度は ―― 逃がさない。千年アイテムもアイツもオレ様のモノだ」
バクラは心からの笑いを響かせながら、アイツの待つ地下へと向かっていった。



気が付いたとき、そこは薄暗い闇に包まれていた。
「ここは…痛っ…」
身体を起こそうとして、不自然に拘束された両腕に痺れが走る。
「くっ…ペガサスめ…」
ここで罵ったところで相手に届くわけではないことは十分判っている。
しかも無様に醜態をさらすなど、その高すぎるプライドゆえに瀬人にはできはしなかった。
ペガサスとの決闘に負けて、気が付けばこの牢屋に放り込まれていた。
既にその時から両腕は壁に埋め込まれた鎖によって上に引き上げられ、血が下がって鈍い痺れとなっていた。
『ユーの才能はホントに惜しいデース。どうです? 私と組む気はアリマセンカ?』
どこまでが本気でどこからが冗談なのかわからない口調。その白々しさが神経に障る。
だから当然のように突っぱねて、そして ――
「くそう…散々好きにやりおって…」
拘束された手首には、派手に暴れたための傷が熱を帯びている。一方では肌蹴られた胸元に忍び込む冷気が、ゾクゾクと襲い掛かるように肌を刺していた。
身体など、どんな扱いを受けたところで今更なんとも思いはしない。
むしろこの身体に溺れさせて、隙を見せた瞬間に寝首を掻いてやる。
そうやって義父となった海馬剛三郎に取り入ったのだし、海馬コーポレーションも手に入れてきたのだから。
今更群がる下衆の1人や2人増えたところでなんの感慨もない。
しかし、
「ククッ…いい眺めだよなぁ、え? 社長サンよぉ」
地の底から這い上がるような低い声に、瀬人はゴクリと息を呑んだ。
「へぇ…昨夜は随分とお楽しみだったみてぇだな。相変わらず、オトコをくわえ込むのが早ぇな」
そう言って目の前に現れたのは、禍々しい邪気に帯びたバクラであった。



「誰だ、貴様は…?」
獏良が転校してきたのは瀬人が遊戯から受けた罰ゲーム「マインドクラッシュ」で心身喪失していた間であったため、この二人に一切の面識はない。
ただ先日の遊戯との決闘のとき、たしか連中の中にいたような気がした。
しかし、あの時は大勢の中に埋もれた極普通の、むしろ目立たない存在であったはずだが、目の前にいるこの男は ――
「チッ…なんだよ、アンタまで記憶を失ってるってわけか?」
忌々しそうに舌打ちをする姿に、奇妙なデジャビューを感じる。
更にこのひしひしと伝わってくる邪悪な気配に、瀬人は直感的にこの男が普通の人間ではないと感じていた。
(まさか…この男も遊戯と同じく…?)
遊戯が、その体の中にもう1人の「遊戯」を存在させていることは知っている。
表向きはそんな非ィ科学的なことをと一笑していたが、理性や感情では説明の付かない理由で「知っている」としか言いようがない。
あれは、全く別の人格 ―― 前世など信じてはいないが、そういった深いところで繋がったもう1人の「遊戯」である、と。
そしてこの男もまた、そんな別の人格をその体内に宿しているということを。
「しかし、相変わらずの美人だな」
そんな瀬人の思いなど気にもせず、獏良はゆっくりと近づくとクイッと顎に手をかけた。
穢れのない蒼穹の瞳が射抜くように見上げてくる。
ゾクゾクとするほどの殺気を帯びた視線は3000年たった今でも変わりがなく、背筋に寒気が走るほどの快感をバクラに与えていた。
「離せ」
「やだね」
この状況で、不利なのは十分わかっている。
だが、瀬人の高すぎるプライドは決して相手に媚びることをよしとはせず、更に状況を悪化させるしかないことは承知の上だった。
もちろんそのことは、煽っているバクラのほうが最初から気が付いていることであり、
「ああ? 判ってんのか、この状況が。アンタは今、オレ様の言いなりになるしかないんだぜ?」
「フン、だからどうした? 俺を拘束でもしておかねば手も出せん下衆の分際で」
「言ってくれるじゃねぇか、ええ? 『神官サマ』よ?」
ゾクリと悪寒のようなものが瀬人の背中を滑り落ちた。
「貴様、何を言って…」
ゾクゾクと体中に襲い掛かってくる闇の気配に、瀬人の脳裏に何かが話しかけてくる。
思い出さなくてはいけない何かを呼び起こすような、それでいて忘れろと命じられるような危うい感覚。
「いいサ、覚えてねぇなら新しく刻んでやるよ。オレ様という烙印をな」
そういうと辺りは漆黒の闇に包まれていった。



「くっ…」
ゾクゾクとする快楽に身を浸して、瀬人は酷く不安定な自分に恐怖を感じていた。
「ん? どうした? ココが良いんだろ? ククッ…相変わらず感度抜群だな」
既に何度もイかされて、いつしか拘束されていた鎖も外されている。
だから逃げようとすればできないはずはなかった。
しかし、身体が言うことを効かない。
いや、むしろバクラの愛撫を待ち望んでいるようで、その一つ一つの刺激に淫らに反応している自分が信じられない。
「貴様…やめろっ…」
「何言ってんだよ。今止めたら、アンタのほうが辛いだろうが?」
身体は素直に反応しているのに、相変わらず理性は拒絶を止めようとしない。どんなに乱れても心は渡さない孤高の佳人である。
瀬人にしてみれば、今更男に組み敷かれるなどどうでもいいことで、別になんとも思ってはいない。
14歳の時に犯されて以来、身体など取引材料の一つでしかないことは充分判っている。
しかし、
「あぅっ…はぁっ…」
「そうそう、ココもこうやられるのが好きだよな? ほら、イイって言ってみな」
「くっ…き、さま…」
抱かれることには慣れているはずだった。実際、昨夜ペガサスに散々弄ばれたときでさえ、喘ぎ声の一つも漏らした覚えはない。
それなのに、バクラの愛撫は的確で、瀬人の弱いところを確実に攻め立てていた。
ある意味では、それは初めて与えられる快楽でもあった。
今まで数知れないほどの男達に陵辱されてきた瀬人であるが、それは全て抱く側が快感を得るためだけのモノ ―― 瀬人にとっては暴力以外の何ものでもないような仕打ちであった。
それなのにバクラの愛撫は、むしろ瀬人の感じる快楽を引き出そうとしているかのようで、そんな抱かれ方は今までに経験したことがなかった。
しかも、何回イかされたか判らないというのに、バクラ自身はいまだ瀬人の中に入ってこようとしなかったのだから。
「…ヤルなら、さっさと済ませるがいい! こんな…あっ…」
「んな勿体無いことできるか。言ったろ、オレ様を刻んでやるって。それに…」
胸の飾りを口にしたまま声を出すと、そのわずかな振動でさえ瀬人の性感帯を刺激する。
「オレ様は自分のオンナには優しいんだぜ」
「誰がオンナだっ! あぅっ…」
どうしようもなくうずく身体が、瀬人の意識とは裏腹に快楽に引きずり込まれていく。
犯されることに恐怖はない。そんな暴力なら相手を憎むことで耐えることはできる。でもこれは ―― ?
「なぁ、名前を呼んでくれよ」
「誰が、貴様など…」
「なんだよ、こんなにヨクしてやってんだろ? この調子じゃあ、今回は王サマよりオレのほうが先にアンタを手に入れたみたいだしな」
「なにを…言って…」
時折囁かれるわけの判らない言葉に、なぜか過剰に反応する自分がいる。特に、
「キレイだな、セト…」
「ああっ…!」
それは自分の名前であることは確かなのに、微妙なイントネーションの違いが胸をえぐるような痛みと哀しみと、そして快楽を瀬人に与えつづける。
うっすらとピンクに染まった肌に無数の花びらをちりばめて、バクラの愛撫に乱れる様は3000年前と変らず美しい。
しかし、
(へぇ…こんな顔もできるんだな)
羞恥と屈辱で潤んだ瞳に、キュッと唇を噛み締める様はセトにはなかったものである。どちらかというと自分と身体を繋げることは取引に過ぎないという、高慢で女王様然としたイメージが強かったセトからは想像できないような弱さである。
それでも、その蒼穹の瞳だけは変らず気高くて ―― 。
おそらく3000年前にこの姿を見ていたのは、あの名も無きファラオだけなのだろうと思うと、やっと全てを手に入れたような満足感がバクラの中で沸き立つのは止められなかった。
「あ、あ…いや…だ…」
「イイの間違いだろ? ほら、イかせてやるよ、何度でもな」
胸からゆっくりと舌を這わせて下腹部に到達すると、バクラは既に何度も己を解き放った瀬人のモノを口に含んだ。
そして微妙な刺激を与えて舐め上げながら軽く吸い上げると、快楽に溺れきっていた瀬人はあっけなくその口の中に果てていた。
「くっ…あ、ああっ…」
瀬人の身体は、もはや意識を失うのも時間の問題というほどに蕩けきっている。
抵抗の言葉など口から出ることはなく、蒼穹の瞳には涙の後さえ浮き出ていた。
「もう限界か? 体力がないところも相変わらずだな」
呆れたような口調に、どこかぬくもりを感じるのはなぜか。心も身体も蕩けきって瀬人にはもはや何も見えず、考えることもできない。
だから、がっくりと力の抜けた身体を四つ這いにされても、それが腰だけを高く突き上げるような屈辱の姿であっても、瀬人には全く抵抗の意思はなかった。
「これが欲しいんだよな? 今入れてやるぜ」
ことさらゆっくりと侵入を進めると、ビクンと瀬人の身体が反り返る。
いくら慣らされたとはいえ本来受け入れるべき場所でないところを侵されるのは苦痛を伴い、ポロポロと涙が自然に流れた。
「あぅ…やめっ…ろ…」
「まだそんなこと言えるのか? 困ったお姫サマだぜ」
獣の姿勢のままで激しく犯されることも、今の瀬人にはなんの躊躇いもない。
むしろより深みを味わおうと貪欲に求め、柔らかい肉襞がバクラに絡みつく。
「相変わらず…凄ぇな。クっ…いいぜ、マジで…」
身体をつなげたまま背中から抱きしめ、膝に座らせるようにすれば、更に瀬人自身の体重もかかってバクラを深くくわえ込んでいく。
その圧迫感に怯えながらも、どこかそれをもっとと望む声が沸き起こり、瀬人はバクラに貫かれたまま妖艶に乱れつづけた。
「あぅっ…はぁ、はぁっ…あ、イイ…」
「…だろう? オマエも最高だぜ」
細い顎を掴んで無理やり自分のほうを向かせれば、蒼穹の瞳からは止めどもなく真珠の粒が零れ落ちている。その不自然な体勢のまま、激しく唇を奪って突き上げ、バクラは耳元で囁いた。
「オレ様を呼べよ、セト」
涙に潤んだ瞳が、うっすらと開かれてバクラの姿を映し出す。その瞳の中に3000年前に見た不敵な微笑を感じて、バクラは更に激しく突き立てその最奥に己の欲望の解き放った。
―― バク…ラ…俺の…盗賊王。
「な…に?」
声にならない瀬人の唇の動きがそう呟いて、ゆっくりと白い身体は崩れるように意識を手放した。



「次の狙いは千年錫状(ミレニアム・ロッド)に決定だな」
闇の空間がゆっくりと晴れていく中、バクラは邪悪に満ちた瞳をまだ見ぬ何者かに向けて呟いた。
千年錫状 ―― 人間の記憶を支配するアイテム。
おそらく鍵はアレにあるはず。
足元には意識を失って倒れている瀬人の姿。
しかしそれは、先程までつながれていた鎖が外されていた以外は、そこが闇の空間になる前と寸分の違いはない。
「絶対に思い出させてやる。ま、今後ともヨロシクな、社長サン」
バクラは形の良い唇を貪るように奪うと、そのまま牢をあとにした。






Fin.

バクラ、犯り逃げですね。おいおい…。
原作は34巻の後、余り読んでいないのでどうなっているのか判らないのですが…
浅葱の設定では、古代ではバクセトもありと。
っていうか、セトは本命ファラオ、間男バクラ、アッシーマハード、
セクハラ秘書カリム…って総受けならなんでもありかいっ!て感じです。

しかし…盗賊王は好きだな〜。特に顔に傷があるって言うのがv
傷フェチなのかもしれないぜ…


初出:2003.10.03.
改訂:2014.09.06.

Paine