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大音響と共に、冥界の神殿への入り口は砂に埋もれていった。
「もう一人のボク…」
闘いの儀に勝った遊戯(表)はその崩れ行く入り口をただ見守っていた。
足が震えて、今にも跪きそうになる。でも ――
勝者は跪いたりしないから。
涙を見せたりしないから。
それが ―― 最後の約束だから。
「王の魂を迎え入れたことで…千年アイテムも、その役目を終えたのです。二度と冥界への扉が開かれることはないでしょう」
誰に言うのでもなく呟くイシズの声に、その場にいた者が皆聞き入っていた。
還るべき所に還った王の魂。その安寧を祈りながら ――



と、その時、



「海馬君…」
沈む夕日を背に砂漠の中に立つ、海馬の姿を見た。



「貴様が勝ったのか?」
いつものデュエル服で、いつものように誇り高きデュエリストとして。
真直ぐ見つめてくる海馬の視線に、遊戯は崩れそうになる心を奮い立たせて対峙した。
「うん」
「フン、そうか」
短く応えた遊戯に、海馬も軽く目を伏せると、あとは砂が流れ込む入り口をただ見ていた。
その後ろでは、海馬愛用のジェラルミンケースを持って立っているモクバがいて。
そのモクバがどこかハラハラと落ち着かない雰囲気なのは ―― 仕方がないことだろうと誰もが思っていた。
海馬ともう一人の遊戯が、「特別」な関係であることは誰もが知っていたから。
二人の間には誰も入り込めないような特別な「繋がり」があったから。
「海馬…君」
毅然と佇む海馬は ―― それはまるで滅び行く祖国を見守る女王のように綺麗だった。



自ら引導を渡す役を担った遊戯(表)。
それを見守って ―― 確認した城之内。
そして、その最後の闘いを見ることなく結果を知らされた海馬。



誰もが辛いのだろうと ―― 寂しいのは誰もが一緒なのだろうとそう思って…



ところが、



―― パチッ
「目標の確認はできた。準備はできたか? 磯野」
襟元に止められたKCバッチのスイッチを入れると、そこに仕込まれた高性能通信機になにやら指示を送る若社長がいて、
『は、社長。ですが、やはり…』
「口答えは許さん。既にエジプト政府にも話は付けてある。さっさと攻撃しろ」
こ、攻撃 ―― !
その一言に、その場にいた全員が一瞬、目を見張る。
「唯一俺に勝った男が、こんなトロイヤツに負けたなどと世間に公表できるか。トドメはこの俺が刺してくれるっ! ワハハハハ…」
って、もう既に冥界の扉の先に行っちゃったんですけど?
「兄サマ…」
はぁ~っとため息をつくモクバが、側にいた遊戯に呟いた。
「イシズさんから連絡は受けてたんだけど…デュエル服、クリーニングに出してたから、取りに行くのに時間がかかっちゃってさ。間に合ってたら、遊戯たちのデュエルに絶対乱入してたと思うぜぃ」
「…あはは」



余りの展開に誰もが口を出せないまま、気がつくと空には戦闘ヘリの一個小隊。
そして数分後には ―― 冥界の神殿は跡形もなく砂と化していた。



*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*



「…あれ?」
冥界の扉の先に広がっていたはずの光の世界。しかし、ユウギ(アテム)が目を開くと、そこは漆黒の闇に包まれていた。
「もしかして、夜…ってことはないよな?」
立ち上がって辺りを見回すと ―― そこは石畳の何となく見覚えのある感じがして。
更に ――
「よォ、やっとお目覚めか?」
伸ばした手の先もわからないほどの漆黒の闇の中にも関わらず、ぼうっと浮かび上がったその姿は ――
「バクラ(闇)…か?」
「ご名答」
ニカッと笑う姿は、どこか邪悪に満ちていて ――
「って、何でお前がここにいる!」
「はぁ? そりゃあ、コイツがココにあるからに決まってんだろ?」
白い髪に紫の瞳。そして、胸には最後の闇のゲームで封印したはずの千年リング。
「まぁ~ったく、ウチの宿主の手クセの悪さには頭が下がるよな。ま、これも俺サマがリングに愛されてっからだけどよぉ…ククク…」
ついでに社長にもな、と云われて ―― ハッと気がついた。己とバクラの姿に。
確かにあの時 ―― 冥界への扉が開いた先の光の中へと進んだとき、姿はかつてのファラオのものになりかけていたはず。
しかし目の前にいるバクラは「盗賊王」の姿ではなく、現世の「獏良 了」に瓜二つ。
そして自分も ―― 着慣れた学ラン姿であったりして。
これって、つまり ―― ?
「宿主の言うにはな、社長がトドメをさしてやるって爆撃してきたらしいぜ。おかげでほら、あの通り」
そう言ってバクラが指差す方向には ―― 無残に砕け散った冥界への扉。
更にバクラがチラリと天井を見上げると、時折パラパラと砂や小石が舞い落ちてきて、朽ち果てた神殿は崩壊寸前 ―― というより、9割方崩壊しきっている。
「他の千年アイテムは扉の向こうに行っちまったが、俺サマの千年リングは宿主サマが脱出間際にちょろまかしてたし、王サマの千年パズルもこっち側に落っこったみてぇだな」
「ってことは…」
つまり、向こう側(あの世)に行きそびれた !?
しかも扉が壊れた今となっては、7つのアイテムを揃えることは実質不可能?
「ちょ、一寸待て、何故俺は実体化している?」
「ウジャト眼の効果は、王サマが完全に冥界に着くまで持続するからだろ?」
あっさり言ってくれたのは良いが、ということは ―― 冥界への扉も壊れた今は、相棒とは別に実体化した身体をもつということで。
(…それは美味しいかも?)
そして ――
「ま、そういうわけだからよ、とにかくアンタはコレを完成させな」
と、目の前にパラパラと落とされたのは ―― 砂まみれにはなっているが、バラバラになった千年パズル。
「何故…お前が?」
「礼なら宿主に言えよ…ってぇか、替わってやる」
と言い放つと、途端にバクラの周りから邪悪な周波が消え去り、そこにいたのは
「あはv、ユウギ君、ごめんね~」
「…獏良」
同じ顔、同じ声でありながら、人格が変わっただけでこうも雰囲気が変わるのかという豹変振り。
しかし ―― ある意味、バクラ以上に恐ろしい性格なことは既に経験済みだったりする。
そう、こういう虫も殺さぬという笑顔の奴が世の中で一番恐いということは、相棒といいこの獏良といいイヤというほど確認済みだ。
「僕としてもね、成仏させてあげたかったんだけど…ほら、千年リングは僕のでしょ。これだけ持って帰るつもりだったのに、リングの紐とパズルの鎖が引っかかっちゃって、パズルもこっち側に残っちゃったんだよね~」
…って、笑って言う話か!
「でさ、お詫びにピースは全部バクラに探させたんだ。だから、早く組み立ててココから出してくれる?」
「…って、どういう意味だ?」
「あのね~、ココに入るのは出来たんだけど、そのあと更に壁が崩れちゃってさ。入り口が完全に塞がっちゃったんだ♪」
「…」
「だからさ、パズルを完成させて、闇の力でオベリスクとか呼び出して、ココから出してよ♪」
ニコっと微笑まれて言われても ―― 何故かゾクリと寒気が走る。しかし、
「あのさ、早くしないと海馬君を城之内君に取られちゃうよ?」
他のことならいざ知らず、その名を出されては ―― こんなところで大人しくしていられるユウギではない。
「何っ!」
「今夜はアレキサンドリアのホテルに泊まって、明日、ニューヨークに帰るって言ってたけど…海馬君、泣いてたもん」
泣いてた? あの海馬が?
高邁不敵で毅然で強くて華麗で。
誰にも屈せず、前だけを見つめる孤高の佳人が ―― ?
「そうだよ。自分で手を下したとは言え、崩壊していくこの神殿を見つめながら…ね」
それを城之内がそっと慰めていた ―― なんて言われては、もういても立ってもいられないユウギである。
「待ってろよ、海馬! 今、俺が慰めにいってやるからなっ!!」
と言うなり、物凄い勢いでパーツを組み立て始めるユウギであったりするわけで ―― 。



そんなユウギをニッコリと微笑みながら見守る獏良に、
(おい、宿主サマ。あれはただ単に、爆撃で舞い上がった砂が目に入っただけで、城之内も無理やり砂避けにされてただけじゃあ…)
『余計なこと言ったら、リングだけ置き去りにしてあげるよ♪』
(…大人しく引っ込んでるぜ…)
心のバクラにもニッコリと微笑みかけて、獏良は楽しそうに呟いた。
「僕、一度、オシリスの天空竜に乗ってみたかったんだよね~。楽しみだなぁ」





to be continued...?



す、すみませんっ!最終回症候群、復帰初の遊戯王妄想話がコレです。
っていうか…アニメ以来、社長乱入は当然!という気がして。
白スーツじゃなくてデュエル服だった理由は、乱入しかねぇ!と思って。
しかも間に合わなかったら ―― 大人しく引き下がる社長のはずがない!
トドメの一つや二つ(10や20?)、刺すのはとーぜんっ!

…で、こうなりました。

それに、あの獏良ですよ。(←あえて、表ね)
黙って千年リングを手放すとは思えん。
冥界の扉の向こうに、盗賊王もいなかったしね。
なので…その辺を一緒にしたらこーなってしまいました。

更にこの後の浅葱的妄想では、何とかアレキサンドリアまで行った獏良(バクラ)と王サマ。
しかし、一足違いで社長はマンハッタンへ~。
ところが、流石に王サマも闇パワーを使い切ってしまったので、
今度はバクラがリングの力で見つけ出した油田の採掘権と引き換えに
イシズ姉さんと交渉して飛行機をチャーター。

ちなみに、バクラはイシズ姉さんに太刀打ちできないので交渉は王サマの役目で。
散々嫌味を言われること一週間(くらいが限度?)。

でも、なんだかんだといって
姫を巡っての王サマ・バクラ・城之内の三角関係(姫は中心だから♪)は、
はっきり言ってイシズ姉さんにとってもこの上ない娯楽だからv(おいおい…)。

「ふふふ…私にはこうなることは判っていました」とか言われそうですね。じゃなかったら ――
「現世と冥界の逆転」のカードで王サマを強制召喚してたのでは?という気も…

ヨソ様のサイトを拝見すると、皆様シリアスなのに…浅葱のみコメディで、スミマセン。
でも、このくらい(?)の妄想は許して欲しいな、と。(←最後は開き直りかいっ!?)
ま、闇海(たまにバク海・城海)は不滅!ということで♪


初出:2004.03.12.


トリスの市場