Happy Birthday to You ! 6月4日:W遊戯(その1)


「俺の誕生日にお前からプレゼントをくれ」
久々のデュエルに勝った遊戯がそう言って帰ったのが、丁度1ケ月前のことだった。


「おのれ、プレゼントだと…」
忘れていたわけではないのだが、気がつけば既に明日である。全く、この忙しいのに厄介な難題を押し付けおって!
「誕生日プレゼント? 別に欲しいものなんてないけど、兄サマから貰えるなら、オレはなんだって嬉しいぜぃ!」
何気にモクバに聞いてみたが、満面の笑顔でそう答えられてしまった。全く、モクバは物欲がない。この世代の子供ならもう少しあれこれ欲しいというものなのだろうと思えば、不憫な思いをさせていることを痛感する。
今年のモクバの誕生日には、せいぜい甘やかしてやろう。仕事の方もそれに合わせて休めるように、磯野に調整させておくべきだな。
などとつい脱線してしまったのだが ―― そうだ、遊戯の誕生日プレゼントだな。
ええい、どうせやるならそれなりのものをやらなくては気が済まない。
ヤツだとて、それを期待しての言い草なのだろう。
そう思えば ―― 尚のこと、その辺の適当な物では済まされないではないかっ!
大体、自分の本当の名前も覚えていないというくせに、何が誕生日だ。
「まぁそれもそうだけど…だから、僕と一緒ってことにしたんだ。1年に1回のことなんだから、いいでしょ」
そんなことを本体の遊戯の方が言っていたな。
まぁ確かに。キリストの誕生日とて12月25日ではない可能性もありながら、世界的には生誕祭となっているからな。
だが、ということは、もう一人の遊戯にもプレゼントを贈れということなのかっ!
おのれ、姑息なっ!
尚のこと、生半可なものでは俺のプライドが許さんわっ!
そんな折に、
「誕生日プレゼントに、年の本数の花束を贈りませんか?」
というキャッチフレーズを見つけた。


そして、6月4日。
武藤家に早朝からトラックが数台、横付けされた。


「えっと…これ、どうしろと?」
荷台から降ろされ、問答無用に二階の遊戯の部屋へ。入りきれなかったモノは廊下や階段を埋め尽くし、一階のリビングやキッチンは勿論、亀の屋店舗内まで埋め尽くされていた。
「あのさ、もう一人のボク。海馬君に何言ったの?」
ソレを目の前に ―― 当然、部屋からはパジャマ姿のまま退去を余儀なくされて ―― 遊戯は心の中に住む、もう一人の自分に話しかけた。
『いや、俺はただ誕生日のプレゼントが欲しいと…』
「お願いだから、今度からはちゃんと品物と数を明記してあげてね。判った?」
『わ、判ったぜ、相棒。(ブルブル…)』


誕生花を年の本数分。
表の遊戯には、17本の赤いバラ。
そして、もう一人の遊戯には ―― 3000本の赤いバラである。


『貴様の正確な年が判らんので、とりあえず3000本にしてやったわ。ありがたく思えっ!』
一応直筆のメッセージカードに書かれている言葉は、どう見ても誕生祝いのメッセージには思えないのだが。


「まぁ。鉢植えでなくて良かったよね。万が一にも枯らしたりしたら…海馬君に抹殺されてるよ、きっと」
そんな相棒の温かい言葉に、もう一人の遊戯が喜んだかどうかは ―― また別のお話で。



Fin.

ちなみに、棘は取ってなかったりすると痛いです。3000本だもんね。
闇遊戯が3000年前のエジプトのファラオなんて信じてないけど、本人が言うなら、揃えてやるわっ!と。
誕生日を祝うとかよりもその使命感に尽きたと思うのは浅葱だけではないと思う。(苦笑)
なお、誕生日の花につきましては、「365日誕生花の本」(日本ヴォーグ社)から参照しました。

また、 こちらは遊戯王サイトの管理人様に限りお持ち帰り自由品です。お祝いしてあげてくださいませ。


2008.06.04.

RoseMoon