02:君はきっと知らない(城海)


「貴様の記憶力はイヌ以下だな。この程度の公式も覚えられんとは…」
そう言って思いっきりため息をつくと、海馬はやれやれというように優雅に足を組み替えた。
そろそろ陽が落ちそうな早春の放課後。
外では体育会系の部活でもやっているのかかすかに掛け声が聞こえるが、皆帰ってしまった教室は静かなものだ。
そんな静かな教室にコイツと二人きりなんて ―― 久しぶりだから、めっちゃ嬉しいところだというのに、生憎ムードも何もあったものじゃない。
というのも、
「全く、この程度の数式も解けんとは…貴様は授業で何を聞いていたんだ?」
「…っていうか、熟睡?」
ここのところバイトがきつかったからと言おうとしたら、その前に教科書が頭を直撃した。
「この馬鹿者っ!」
―― バシッ!
しかも、背表紙だぞ。それは痛いって!
「ったぁ…おい、海馬! 頭殴るなよな! これ以上馬鹿になったらヤバイだろーが!」
「フン! これ以上だと? なるかっ、愚か者っ!」
そう言うと、まるで机に叩きつける様に教科書を開いた。
「とりあえず公式を暗記しろ。公式さえ判っていれば、あとは数字を入れ替えるだけだ」
そう言われて数学の教科書を突きつけられたが…何だこれ?
すみません、ナンノアンゴウデスカ?
「えっと…シン、アルファ…?」
「sin(α+β)=sinαcosβ+ cosαsinβ」
「…すみません、日本語でお願いシマス」
なんで数学なのに英語なんだよっ!と俺が視線で訴えても、海馬は思いっきり馬鹿にしたような(あ、してるのか、クソっ!)視線で見下ろすだけだ。
「読み方からレクチャーしろというのか、貴様は…全く、頭の痛い…」



でもな、海馬。
お前は、絶対知らないだろう。
公式なんか覚えられなくても ――
―― 俺がどれだお前に惚れてるかってことは。



「…何をニヤけているんだ、城之内。言っておくが、赤点など取ったら暫く屋敷に来るのを禁止するからな」
「え? マジ? それはカンベン!」





Fin.

赤点で補修になると、益々逢う時間が短くなるから〜とわざわざ社長が見てくれることになったというのが裏設定。
でも、そんな時間をとってくれること自体が嬉しくて、勉強どころじゃないようです、城之内。
公式は三角関数ですが、別に闇様いれての三角関係というわけではありませんよ。(苦笑)

でもこの話、別に海城でもOKのような気がします。


2007.03.11.