03:視線の先に、いつもいる君(バク瀬人←獏良?)


カタカタカタ…
眠気を誘うような午後の授業。
そんな気だるい雰囲気の中で、明らかにノートを取るのとは違う音が響いている。
カタカタカタ…カチッ…
惚れ惚れするようなブラインドタッチは、まるでピアノでも弾いているようで。
キーボードを叩く音ですら、綺麗だと思うね。
勿論、当の本人はもっとキレイだけどね!
(あ、でも…)
ディスプレイのモニタにしか視線を向けていない横顔に、ちょっと疲れっぽい翳が見えるのは気のせいじゃないよね。
僕も色は白いほうだけど、今の海馬君の方がずっと白くて痛々しいよ。
それに、キレイな眼の縁に、うっすらと隈も浮かんでるような気がするな。
(勿体無いなー、折角の美人なのに)
勿論そんなことは口に出してはいえないけど…そういえば、ここ数日は、リングの彼も気を使って逢いに行っていないくらい、忙しくて大変みたいだもんね。
(そうだよねぇ、アノ「僕」が遠慮してたくらいだもんね。大変なんだろうなぁ…)
おんなじ高校生なのに、海馬君はあの細い肩で「海馬コーポレーション」を支えてるんだもんね。
一般高校生の僕とは忙しさだって雲泥の差だろうね。
でも…
『何、見てんだ?』
不意に心の中に声が聞こえて ―― チクっとリングが胸に刺さる。
学校じゃあ滅多に起きないリングの「僕」だ。
(あ、起きた? まだ学校だよ)
『みてぇだな。かったるい。授業に集中しねぇなら、フケちまえよ』
(そういうわけにもいかないでしょ? もうちょっとだから我慢してよ)
『フン、めんどくせぇ…』
本当に嫌そうに呟いてる「僕」。
同じクラスには遊戯君が居るからね。どうも「僕」は、あの「もう一人の遊戯」君とは相性が悪いみたいで、イレモノとはいえ外見が良く似ている遊戯君を見るのも好きじゃないみたいなんだ。
まぁ「もう一人の遊戯」君の方も僕たちのことはあんまり好意的とは思えないけどね。
その遊戯君は僕より3つほど前の席だから、授業中なら余程のことがない限り視線が合うこともないのが幸いだね。
そう思って、それを「僕」に言おうと思ったら ――
『…』
僕の眼を通して、「僕」が見ているのは、勿論、海馬君。
すごいね。僕だったらなんとなくしか見ていなかったはずなのに、「僕」に変わった途端に産毛の一本一本まで数えられそうな気がするよ。
その上、
『シャチョ…』
勿論声には出さないけれど、僕の唇が無意識に動いて、「僕」が海馬君を呼ぶ。
すると、
―― パタン
「時間なので、早退する」
不意にノートパソコンを閉じると、海馬君は突然席を立ってしまった。
ほんの一瞬、チラッとこっちを見て。



授業はあと、残り10分。
元々眠気は覚めてたけれど、今度は益々退屈になってきちゃったよ。
たった一人教室から人数が減っただけなのに、視線の先が居ないのがこんなに寂しいものだなんて ―― ね。
だから、
(ねぇ? 今夜、僕、早く寝るから、そのあとだったら好きにしていいよ)
『ああ? …いいのか?』
(うん)
だって、「僕」に変わった途端に、海馬君は僕を見てくれたんだもん。そのくらいは譲歩してあげるよ。
その代り、
僕が海馬君を見ていたのも、僕が「僕」を見ているのも、内緒だからね。





Fin.

遊戯とか獏良とか、表の方はなんとなく傍観しているのが好きです。
気分は、やんちゃな弟を見守る姉というか。
ちょっと年上っぽく見えるところも好きだ。
(というか、闇人格は成長してない?)

そして、見守りながらも実は表も社長を…という微妙な△関係もかなり好きv


2007.03.27.