04:僕はとても我侭だから、(モク瀬人)


ここ数日、屋敷にも帰らずに新型デュエルサーバの研究に没頭していた兄サマを心配して開発室にやってくると、そこには既に先客の姿があった。
「なぁ、海馬。お前、最近ちゃんとメシ食ってるか? 何かこの前よりも更に痩せた気がするぜ?」
「煩いぞ、遊戯。邪魔はせんというから入れてやったのだ。騒ぐならさっさと出て行け」
いつものことだけど、兄サマが無理をすると何故かそれを見計らったかのように遊戯がKCを訪れるんだ。
そして、まるで喧嘩を売るようにあれこれ言って振り向かせようとする。
勿論それは少しでも兄サマを休ませようとしていることは判っているけど…
「そんなに弱った身体じゃあ…本気のデュエルもできないぜ?」
「弱っただと? 貴様、言うに事欠き俺を弱いとでも言うつもりかっ!」
「そうだな。今のお前は弱いかもな。鏡で見てみろよ。今にも倒れそうな顔色だぜ」
「おのれ…黙って聞いておれば、よくも…」
素直じゃない兄サマは、休めって言われても休まないことなんか誰だって知っている。
だから逆にそんな言い方をすれば ―― 絶対に乗ってくることは間違いナシだ。
「フフン、だったら試してみるか? デュエルで」
そんなことを言出だした遊戯に、俺はいつものパターンと頭を抱えたくなったぜぃ。
(兄サマ、これじゃあいつものパターンだって!)
ここまで言われてしまったら、あの兄サマが大人しく引き下がるはずなんてない。
当然、デュエルになって ―― 勿論、「賭け」もあって。
『オレが勝ったら、付き合ってもらうぜ!(ドンっ!)』とかってなって…。
勿論そのおかげで兄サマが休んでくれるのは嬉しいけど…オレに任せておけとでも言いたげな遊戯の視線が、なんとなく気に入らない。
判ってるぜぃ。兄サマと遊戯にとって、デュエルはまるで小指同士をつなぐ赤い糸のようだって。
それは神聖な儀式のようでもあって、誰も邪魔することはできないってことだって。
でも ――
「兄サマ…」
俺はちょっとつらそうな表情を作ると、小さな声で兄サマを呼んだ。
すると兄サマは
「どうした、モクバ?」
「ん…なんか、寒気がするぜぃ。風邪ひいたかな?」
「何?」
途端に遊戯なんかほったらかして、俺の方だけを見てくれる。
「ここは少し他より低めの温度設定にしているからな。無理するな。今日はもう帰って休んだほうがいい」
「ん…でも、一人じゃ…」
「不安か? 仕方がないな。では俺も今日は帰ろう」
そう言って仕事に使っていたパソコンを躊躇なくシャットダウンさせた。
勿論、こうなったら慌てたのは ―― 遊戯だ。
「え? お、おい、海馬…」
ついさっきまで、仕事が忙しいから家に帰る暇もないといっていたはずなのに、そんなセリフは既に過去の遺物になってしまったようだ。
それどころか、
「なんだ、まだいたのか、遊戯。ここは俺の留守中はセキュリティでロックがかかる。愚図愚図していると閉じ込められるぞ?」
そう言って俺を抱きかかえ颯爽と出て行ってしまう。
「おいおい、それはないぜ?」
そんな兄サマの腕の中から伺うと、がっくりとため息をつく遊戯と眼があった。
多分、俺が仮病を使ってることも判ってるんだろうな。でも ―― 悪かったな、遊戯。今日は俺の勝ちだぜぃ?
兄サマと一緒にいれるなら、幾らだって俺は我儘になれるんだぜぃ。


第一、そう簡単に兄サマは渡さないからなっ!





Fin.

モクバと青眼にはとことん甘い兄サマです。
そして、対闇遊戯防衛ラインも共同で張っていると推察します。

ええ、兄サマだけがそれに気がついていませんよ。

因みに、このあと兄サマがモクバと添い寝をしてくれたら…きっと闇遊戯は怒り狂うこと間違いナシですね。
そして、その怒りの意味も判らない兄サマが好きだわv


2007.04.29.