05:君にも望んで欲しい(城海)


手にした携帯をじっと見つめること約10分。
城之内はずっと待受画面を開いたまま、悩んでいた。
この携帯は ―― 今、日本で一番人気のアイドルがCMをしている最新機種。
しかも入っている料金プランは、通話もメールも使い放題な上に、支払が城之内ではないときている。
勿論そんなリッチな携帯を、勤労学生である城之内が持てるはずはなく ―― これは、某若手社長から貰った唯一のものだった。
何せ漸く「恋人」となれたというのに、かの佳人は、同級生でも若手社長。
世界を飛び回っているのは知れたことで、なかなか学校に来ないどころか、最近ではこの町にある屋敷にもKC本社にも姿を見せないと言われている。
(確か今は…アメリカっていったっけ? いつになったら帰ってくるんだよ?)
同じ勤労学生でも、そのスケールは、月とスッポン並みの差がある。
とはいえそれでも ―― 城之内にだってなけなしのプライドはあると言うもので。
幾ら社長職で金銭には全く不自由しないと言う恋人でも、その援助を受けるようなことはしたくなったのだが、
『ないと…俺が困る。いざと言うときに貴様に連絡ができないからな』
『いざって言うときって…お前、なんかヤバイことしてるのか?』
『俺が悪徳商人のような真似をしているとでも?』
『いや、だって…』
『馬鹿者。逢う時間ができたときに決まっておるだろうが!』
なんて言われたら、それはもう天にも昇るというものだ。
その上、
『電話は無理でも…メールでならば連絡はとれる』
だから素直にこの携帯も受け取って、早速、毎晩メールを送ってみたのだが、海馬からの返事はいつも素っ気なかった。
城之内が、それこそ字数制限に引っかかりそうなくらいの文章を送っても、
『そうか』
『良かったな』
『判った』
とその程度の返事のみ。
肝心の、日本に帰る予定とか ―― 勿論、甘い言葉なんて皆無だ。
「ったく、海馬のヤツ…」
何でもできて、何でも完璧な海馬のことだ。まさか携帯のメールが打てないなんてことはあるはずもない。
それなのにそんな短い文章だけというのは、それほど仕事が忙しいのか、それとも ―― と、勘ぐってしまうのは、仕方がないだろう。
「そりゃあ、アイツは元々俺なんか視界に入ってなかったし…」
それどころか、殺されかけたこともあれば人間扱いされていなかったこともある。
いいところが遊戯の付属品で ―― 犬の骨、凡骨と、名前以外で呼ばれた回数の方が多いくらいだ。
そんな、今までの付き合いを考えれば、何処がどう転べば「恋人」になんかなれるのかって言われそうなものだから。
隠すつもりはないとしても、流石に遊戯や本田たちには相談なんてできやしない。
でも、それでも。
『俺も…貴様のことは…』
そう呟いていたあの言葉を、嘘とは思えなかったから。
「あーもう、やめた! 悩んでてもしょうがねぇ!」
そう思い切ると、意を決してメールではなく、携帯番号を入力した。
(仕事中だって、怒られっかな? ああ、もう、でも、我慢できねぇんだから!)
怒られたらなんて言い訳しよう?と。そんなことを思っていたら。
『…城之内か?』
ワンコールの呼び出しもかかる前に、ずっと聞きたかった声が呼んだ。
「あ…海馬?」
『ああ、俺だ』
「悪ぃ、仕事中だった?」
『ああ…だが、構わない』
「えっと…忙しいんだよな?」
実際に声が聞けてしまったら、あれこれ問い詰めようとしていたことなんて霧散してしまって。
しかも
『忙しいが…お前なら構わん』
「へ?」
『…俺も、声を聞きたかった』



反則だと思う。
心の準備もなしにそんなことを言われてしまったら、もう、何も言えないじゃないか、と。
期待していいのか? お前も望んでくれてるって?
俺ばっかりが、お前を追いかけてるわけじゃないって。
「そ…か。うん、俺もお前の声が聞けて、嬉しい」
『そう…か?』
そう応える海馬の声は、どこか儚げで。きっと今頃は誰にも負けないキレイな笑みを浮かべていると信じていた。





Fin.

何か最近…城海を書くと、海城っぽくなるのは何故でしょう?

因みに社長がメールで素っ気無かったのは、
本当は色々書きたかったのに、打っていたら字数制限に引っかかってエラーになったとか、
電話もメールも、却って逢いたくなって仕事どころじゃなくなるからとか。
そんな理由だと可愛いと思いますv

結構、城之内には甘い社長。
もしかしてモクバと同レベルかも?


2007.07.07.