08:その笑顔のためなら、何だって引き換えにできる(盗賊王×神官)


「まぁオレ様にかかりゃ、ざっとこんなもんよ」
そう口では簡単に言って見せたが、これだけの品を揃えるのは結構な苦労があったんだぜ。
それなのに、
「…フン、ロクなものがないな」
こともなげにそう言い放つと、セトはお忍び用に被っていたマントを脱ぎ捨てた。



大通りから迷路のような裏路地を通り抜けた隠れ家に、颯爽と現れたのは幼馴染の神官だった。
「また王墓を襲ったそうだな」
ノックもなしに入ってきたかと思えば、いきなりの台詞である。
だが、
「まぁな。あんなちゃちな仕掛けなんぞ、朝飯前だぜ?」
そう強がって言ってはみたが、今回は少々ヤバかった。
王宮警備役のボケ神官が、今回は妙にリキ入ってたからな。流石に無傷とはいかなかったが ―― まぁ大したことはない。
しかし、
「フン、減らず口を。マハードのようなボケに手傷を負わされたくせに」
そう呟いたセトの表情に、一瞬だけ心配げな色が見えたような気がしたのは ―― 気のせいか?
先日の王宮襲撃以来、あのボケ神官を焚きつけてるのはセトのはずなんだが、それこそ「今更」だな。
だから、
「それよりも…これなんかどうよ? お前に似合いだと思って、見繕ってきたんだぜ?」
そう言って、昨晩失敬してきたばかりの戦利品を見せたんだが、
「そんな装飾品など、俺にどうしろというのだ。そもそもそれは女物だろう?」
返ってきたのは、相も変わらずの口調だ。
「いいじゃねぇか。そこいらの女なんかより、お前がつけた方がぜってぇ見栄えがいいって」
「冗談ではない。盗品など、身につけられるか」
って、盗品じゃなければいいのかよ?というツッコミは置いといて。
まぁコイツなら、何もつけてなくたって女なんかより、ずっとキレイではあるしな。
それに、
「大体、神官たるこの俺に、着飾る必要などないではないか」
そんなことをマジ顔で言うんだから ―― ホント、こういうところは世間知らずというか、なんというか。
「全く、ファラオといい貴様といい、何故俺にこんな余計なものを持ってくる?」
「そりゃあ、キレイなモノをよりキレイにってぇのは、男として当然の役目だろ?」
「 ―― ?」
「ヒャーハハッ。構うこたぁねぇよ。王サマには盗賊王からの貢物だって言ってやりゃぁいいんだからよぉ」
「…冗談ではないわ」



まぁ確かに。どんな芸術品でも、セトに敵うものなどありはしない。
見た目は極上、才能は最上、性格は至上 ―― それこそ、生ける芸術品だ。
そして、
「とにかく、この盗品は早急に処分しろ。明日にはここに手入れをさせるからな」
「って、何だ、それ。バラす気か?」
「当たり前だ。俺は王宮仕えの身だぞ」
そう言ってさっさと帰ろうとしたその時、ふと、部屋の片隅にあったものに目を向けた。
眩いばかりの金銀財宝が溢れる中で、それはあまりにも小さくて質素なものだったのだが、
「これ…は?」
セトが手にしのは、銀製の小さな竜の置物。子供の手のひらにも乗りそうなほどしかない大きさだが、屑石とはいえ眼にはエメラルドが入っている。
「ああ、アドビスの土産物屋で手に入れた。少々ちゃちだが、可愛くね?」
おそらくは、子供相手の土産と思うが、もしやと思って買ったのは俺のカンだ。
そしてこういう感は、滅多なことで外れた試しがない。



「…これは俺がもらっておいてやる」
そう言って、どこか嬉しそうに小さな竜の置物を抱え込むと
「いいな、早く処分しろよ。くれぐれも…ドジを踏むなよ」
そんな捨て台詞とは裏腹に、ちょっと嬉しそうな、はにかむ様な笑顔を見せるんだから ―― 罪作りだぜ?
ったく、しょうがねえ。あんな顔されちゃあ、な。
「ま、オレ様も酔狂だが…世の中、こんなもんよ」






Fin.

(うちの)神官セトさまは、割りと表情が表に出ます。
おかげで、その表情にノックアウトされる者も多いのです。
(そして貢物も増えていく…)

どんな金銀財宝よりも、ドラゴン好きはお決まりです。
あとは、強いカーとか?(苦笑)
ホント、命がいくつあっても大変ですよ;


2007.10.14.