10:だから、どうか、愛しき人よ (モクバ)


「そろそろお休みになられませんと…」
そう言われて部屋に戻ろうとしたとき、外に一台の車が止まった。



「お帰りなさい、兄サマ!」
階段を駆け下りれば、そこには兄サマが帰ってきていた。
仕事用の白いスーツに身を包んだ姿は相変わらず格好いいけど…やっぱりオレにはデュエルスーツの方が似合うと思うぜぃ。
仕事用のスーツよりも、デュエルスーツの方が兄サマの細見なところ強調するんだけど、でも、あっちの方がずっと生き生きとして見えるし。
それに、スーツの兄サマはずっと大人に見えて、とても無理しているように見えるから。
案の定、
「モクバ…まだ起きていたのか」
そう言って俺の頭を撫でてくれた兄サマは、すごく疲れているみたいだ。
「明日も学校があるのではないか?」
「うん、そうだけど…」
学校があるのは兄サマだって一緒だぜぃ。まぁ、学校よりも仕事なのはわかってるけどさ。
「早く休めよ」
「…うん」
兄サマもね ―― と言いたいけれど、そうも言ってられないのも判ってる。
兄サマの細い肩には、KCの全社員 ―― 強いてはその家族の生活がかかっているんだ。
いい加減なことはできないし、手を抜くことなんて、ありえない。
(まぁ兄サマの場合、社員のためというよりは自分の趣味もあるのも判ってるけど…)
新製品の開発には、どうしても初期投資が必要になる。
そのためには今の売上を下げるわけにもいかないから、経営と開発が兄サマの両肩に圧し掛かっているんだ。
「兄サマも、あんまり無理しないでね」
そう言って見上げれば、疲労の濃い顔色だけど、兄サマは苦笑を浮かべるように微笑んでくれて、
「…ああ、心配するな」
もう一度、くしゃりとオレの頭を撫でると、そのまままっすぐに自分の部屋へと行ってしまった。
その背中に、ここのところ、いつも思っていることを呟いてみる。
「オレ…早く大人になりたいぜぃ」
せめて経営の方だけでもオレが肩代わりできれば、兄サマは思う存分開発に没頭できるだろう。
そうすれば ―― まぁそれはそれで兄サマのことだから、今度は開発の方にのめりこんじゃうかもしれないけど、それでも少しは兄サマの役に立てると思うんだ。
早く、兄サマの手助けができるようになりたい。
まだ今はその時期ではないと兄サマは言うけど ―― オレにとって兄サマは世界で一番大切なんだし。
それに、兄サマがオレの世界の中心だから。
だから、どうか兄サマ。
オレが大人になるのを、もう少しだけ待ってて?





Fin.

最後は割とノーマル(?)にモクセトで。

兄弟に限らず、年の差って永遠に縮まりませんよね。
でもきっと、10年後にはいいオトコになるモクバに反して、
兄サマは変わらず美人と信じてます。

ええ、綺麗な兄サマ、大好きですっ!


2007.11.25.