青03:満員電車(モクバ&瀬人)


―― 夢を見た。



オレと兄サマは古い一軒の家の前に立っていた。
あれは多分、海馬の家に来る前 ―― 兄サマが今の俺くらいのときのこと。
その家はもうながいこと誰も住んでいないようで、庭の草はぼうぼうに生えていたし、窓ガラスは割れていて、まるでお化け屋敷みたいだった。
もちろん、門は堅く閉じられて、「立ち入り禁止」の張り紙がしてあって ――
でも、何故か兄サマはその門を懐かしそうに触って…なんだかそのまま家の中に吸い込まれていきそうな気がした。
だから、オレは兄サマに縋りついた。
『行かないで、兄サマ! なんか…恐いよ』
『…恐い? …そうか、そうかもな』
そう呟いた兄サマは、何故だか今にも泣き出しそうなほど悲しい眼をしていた。



その次のシーンは、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車に、オレと兄サマが乗っていた。
やっぱりまだ小さな兄サマと、もっと小さなオレがいた。
通勤ラッシュっていうヤツかな? 電車の中は凄く混んでいて、それこそ足の踏み場もないほど。
『大丈夫か? モクバ。倒れそうになったら俺に掴まれ』
『うん、兄サマ、ありがとう』
兄サマだって、あの頃はまだ小さくて、大人たちのなかでもみくちゃにされそうだった。
でも、どんなに電車が揺れても、オレをしっかりと守ってくれて、オレは兄サマにずっと掴まっていたのを覚えている。
全ての敵から守るように、ずっとオレを抱きしめてくれていた兄サマ。
まるで周りの大人がみんな敵のように睨みつけていた ―― 。



そして、目が覚めた。



「…夢、か?」
何か酷く疲れる夢だった。
そう思って、起き上がろうとして ―― 思い出した。
「そうだ、夢じゃない。あれは…」
昔、引き取られていた施設から1日だけ許可を貰ってでかけた場所。
あれは ――
「オレと…兄サマがうまれた家だ」
確か、オレと兄サマが海馬家に引き取られるまえに壊されたと聞いている。
そうだ、あれから兄サマは全てを敵に回すように前だけを見るようになった。
もうオレたちには、帰る場所なんかないと確認したから。



「おはよう、モクバ。よく眠れたか?」
ダイニングに向かうと、既に兄サマは食事を済ませて出かけるところだった。
「こんな早くから仕事なの?」
「ああ…どうした? 恐い夢でも見たのか?」
そう言ってオレの頭をくしゃっと撫でる。
「そ、そんなんじゃないゼ。ちょっと昔の夢を見たから…」
そういうってうつむくと、兄サマは膝を折ってオレを抱きしめた。
「昔など思いだすな。お前にはこれからの未来がある」
「…うん、そうだね。大丈夫だよ」
大丈夫、兄サマが側にいてくれるから。
そう、あの、帰りの満員電車から、ずっと兄サマはオレを守り続けてくれている。



でもね、いつか ―― 今度はオレが兄サマを守ってあげる。






Fin.

…現代では社長は電車なんか乗ってくれないだろうから、
昔の回想シーンということにしてみました。
ちょっとこじつけだな…ま、いいか。
思うに、モクバは将来、社長よりでかくなる気がします。
がんばれモクバ!社長の未来はキミにかかっている!…か?

2003.09.18.

Pearl Box