青08:笑い声(表遊戯)


「俺のターン、ドロー!」
ちらりと手にしたカードに目を通し、城之内君がカードを決闘盤(デュエルディスク)にセットした。
「俺は…カードを2枚伏せ、更にワイバーンの戦士を守備表示でターンエンドだ」
思いっきり口惜しそうな顔をしているところから、城之内君が苦戦を強いられているのは明らかだ。
一応、デュエルキングダムではもう1人の僕に続く2位ということだけど…やっぱり、相手が悪すぎると思うんだよね。
だって、相手はあの、海馬君なんだもん。
「大きな口を叩いた割には、防戦一方ではないか。所詮、貴様の腕などその程度というものだな」
「う、うるせぇ! さっさとカードを引け!」
「言われなくても、貴様など瞬殺してやるわ。俺のターン、ドロー!」
そういうと海馬君は華麗な手さばきでカードを引き、ニヤリと微笑んだ。そして、
「俺は場に出ているモンスター2体を生贄にして、ブルーアイズホワイトドラゴンを召還。更に魔法カード発動。守備封じの効果により、凡骨のワイバーンの戦士を攻撃表示に強制変更する」
「な、なにっ!」
「そして俺の攻撃。行け、ブルーアイズ。ワイバーンの戦士に、滅びのバースト・ストリーム!」
「うわぁ〜!」
凄まじい攻撃に、城之内君が吹っ飛ばされる。それを高みから見下す海馬君は、はっきり言ってご機嫌だ。
「ワハハ、思い知ったか凡骨。貴様と俺の格の違いを!」
「く、くそぅ…」
「さて、俺はターンエンドだ。フン、サレンダーするなら今のうちだぞ?」
「舐めるな! 俺のターン、ドロー!」
海馬君のLPはもちろん4000のまま。一方の城之内君のほうは100を切っている。
まぁ、最後までわからないのがデュエルだけど、どうみたってコレは…。
「兄サマの勝ちだゼ」
「うん…そうだね、ちょっと城之内君にはこの状況を逆転させるのはつらいかな」
流石にモクバ君にも先が見えたみたいだ。っていうか、モクバ君は海馬君の勝利しか信じてないもんね。だから海馬君が優勢なのを目のあたりにして、本当に嬉しそうだ。



『おい、相棒! 頼むから代わってくれ! 俺も海馬と戦うぜ!』
キラリと千年パズルが輝いて、もう1人の僕が心の中で叫びだす。ああそうだ。ここにもデュエル狂が一人いたっけ。
「だめだよ、もう1人の僕。キミが戦って海馬君を負かしたりしたら、困るんだ」
『相棒〜』
「とにかく、ダメ! 僕もモクバ君も海馬君の元気な姿を見たいんだから!」
僕はデュエルしたいと叫んでるもう一人の僕を心の部屋に押し込んで、モクバ君と2人のデュエルを見守っていた。
もともと海馬君はすごく綺麗だけど、やっぱりこうやってバトルしているときが一番綺麗だな。
カードを引く指先も、一つ一つの動作も、他の人がやったら芝居くさいのに、海馬君にはすごく合っていて、当然のようにカッコいい。
「でも、海馬君が元気になってよかったね」
「ああ、ありがとうな、遊戯」
「ううん、みんなの力だよ。それに、心のパズルを完成させたのは海馬君自身だし」
「ああ、そうだゼ。さすが兄サマだよなv」
デュエルキングダムから戻って来たばかりで、これからKCの建て直しやらで海馬君がまだまだ大変なことは判っている。
でも、こんなに楽しそうにデュエルしている海馬君を見ることが出来るなんて、すごく嬉しいね。
「城之内にも感謝しないとな、兄サマのカモになってくれて」
「う〜んそうだね。もう1人の僕だと…海馬君、ご機嫌斜めになっちゃうかもしれないし」
カードの貴公子との異名も持つ海馬君は、本当にデュエルが好きで、バトルしていればご機嫌だ。
もちろん勝てばなおのことご機嫌指数も上昇するわけで…



「行け、アルティメット! アルティメット・バースト!!」
いつの間にか海馬君はブルーアイズ3体の召還&アルティメット化を完成させていて、しかも城之内君の場にモンスターはいなくて…。
「うわぁ ―― っ!」
「ワハハ…アルティメットに滅ぼされるのを光栄に思え! ワハハ ―― 」
海馬君の高々な笑い声と共に ―― 城之内君のLPは0になった。



「…やっぱり海馬君の圧勝だったね」
高々と笑い声を上げて佇む海馬君は、本当に綺麗だ。
「兄サマが笑い声がまた聞けるようになるなんて、夢みたいだ」
「良かったね、モクバ君。ほら、海馬君のところに行ってあげなよ」
「ああ、じゃあな、遊戯」
そういって海馬君に駆け寄るモクバ君も本当に嬉しそうで、良かったと思うよ。
海馬君は駆け寄ってきたモクバ君を抱きしめると、相変わらずの高笑いを残してあるべき場所へと戻っていった。



『…っていうか、あの状況で普通、わざわざアルティメットにするか? 城之内君、まだ倒れたままだぜ』
結局バトルさせてもらえなかったもう1人の相棒だけがご不満みたいだけど、
「いいんだよ、城之内君は撃たれ強いしv。おかげであんなに嬉しそうな海馬君も見れたし」
『…そういうものか?』
「うん、僕、海馬君のあの高笑いって好きだな。キミだってそうでしょ? あの高ピーなところがたまらないって言ってたじゃない」
『まぁそれもそうだが…』
「ならいいんだよ。さ、城之内君を拾って僕らも帰ろう!」
僕はもう1人の僕をそう言いくるめると、本田君に城之内君をおぶってもらって家へと向かった。






Fin.

……コレを書くために、DM2とフォルスの攻略本を引っ張り出しました。
ああ、買っておいてよかったわ。ゲームは息子がやってるけど。
一応、PS2もGCもGBAもソフトはあるんだよね。
しかも昔の海馬デッキも持っている私って…?

しかし、城之内、カモですか?おいおい…それはないだろう?
モクバはともかく、うちの表遊戯も社長さえ良ければいいのか!
ま、いいけど。

2003.10.04.

Pearl Box