青13:散歩道(モクバ&瀬人)


珍しく海馬が学校に姿を現したその日は、これまたタイミングよく教師の研修会があるとかで午前中のみの授業であった。
しかし、当然そんなことは知らなかった海馬であり、珍しく午後まで出席しようと思っていたので時間は十分にあった。
(さて、どうするか?)
授業が無いのなら学校にいても仕方がない。
自社の車が無くても、海馬のポケットマネーでタクシーの一台も呼ぶには問題ないのだが、今は急ぎの仕事も一段落がついたところで、今日は割とゆっくりできるということも知っている。
家に帰ってゆっくりとカードの構築をするのもいいし、会社に行ってラボにこもるのも捨てがたい。
(まぁいい、どちらにしても、たまには歩いてみるか)
そんな風に思ったのは、何気に見上げた初冬の空が、冴え冴えと青く澄み渡っていたからかもしれない。そう、まるで最高のしもべの瞳のように。
丁度、童実野高校からKC本社も海馬邸も途中までは同じ道である。
大通りを出た先で右に行けばKC本社、左に行けば海馬邸。
どちらにするかは、そこまでに決めればいいだろうと、珍しく悠長に歩き出していた。



「ボクのターン、ドロー!」
もう少しで大通りという辺りで、不意に聞こえてきた子供の声に、海馬が立ち止まった。
見れば ―― 住宅街の一角に小さな公園があり、そこではモクバより小さな子供たちがM&Wに興じていた。
「ボクはエルフの剣士を攻撃表示、闇の暗殺者を攻撃!」
「うわっ、ちょ、ちょっと待った!」
「だめだよ、待ったなし!」
「あ〜やっと次にこれを生贄にしようと思ってたのに〜。ちぇっしょうがないな。えっと…そうしたらボクのHPは…」
海馬から見れば甘っちょろいお遊びである。でも本当に楽しそうにしている子供たちに、デュエルの厳しさとは ―― などと言う気にはなれない。
(ま、所詮は子供のお遊びだな)
おそらく、あの子供たちにはデュエルデスクは高価すぎて手に入れることもできないのだろう。
一生懸命、地面に字を書いてHPの計算をし、あーでもないこーでもないとやっている。
普段の海馬であれば、
『こんな簡単な計算もできんのか、この戯けが ―― !』
と怒鳴り散らすところではあるが…。



「あれ兄サマ、それ…?」
今日は急ぎの仕事が無いと聞いていたモクバは、何をしているのだろうとデスクを覗き込んだ。
「あれ? デュエルデスクじゃないの? でも、M&Wだよね」
「ああ、ビギナー用…子供向けのだ」
一見して判る、初心者用のM&W。おそらく対象は小学生低学年以下で ―― 全てにおいて最高を求める兄サマが、まさかそんなものを考えるとは思えなかった。
でもそれができれば、小さな子供でもM&Wを楽しむことができるだろう。
『兄さんの夢はな、世界中に遊園地を作ることなんだ! 親のいない子供はただで遊べるような、遊園地を!』
(兄サマの夢に…一歩近づいてる? でも、どうして急に…?)
ふと見上げた兄サマの表情に、昔見せてくれたような清々しい微笑みが浮かんだ。
「たまには…散歩もいいものだな、モクバ」
そういって窓の外を見た兄サマは、とってもキレイだった。






Fin.

瀬人onlyのつもりが…モクバ&瀬人になりました。
こうして新製品の開発にいそしむわけね♪
しかし…HPの計算はマジに面倒だモンね。
デュエルデスク、マジに欲しいわ。

2003.10.19.

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